行政サービスの
「脱中心化」と自由競争を両立できるか

 この社会企業というモデルは行政サービスの「脱中心化」に対して、新たな選択肢を示す。これまでの民営化では、政府はその機能を委託することに焦点を合わせており、公共サービスの分散化には常にリスクが伴うとされ、政府は認可を与えることに注力していた。

 それとは逆に、社会企業は公共サービスの提供や改善に貢献し、従来型の公営企業が実現できなかった競争力のあるイノベーションを実現するようになった[訳注3]。社会企業というモデルは、自由競争に基づいたムダのない手法であり、政府の役割を公共財の購入者に限定し、非効率的な官僚機構を必ずしも拡大させることなく、成長し続けることができるものでもある。

 イギリス保健省は、社会企業がプライマリー・ケア・トラスト (Primary Care Trusts) からの委託業務に入札するよう働きかけることで、「公共医療サービスを提供する機能」を有効に政府から分離させる機会を模索中である。その目的は、政府が認可業務に特化する一方、社会的企業が国民医療サービス (NHS) を補完することにより、公共医療サービスの質と能率を改善させることにある。結果、地域社会の要望に対して、ずっと迅速で革新的な方法で対応がなされるようになったため、初期の結果は非常に望ましいものであった。これにより地域コミュニティ単位の公共医療サービスを、全国的なシステムへと高めていくための道を開くものとなった。保健省は近年、このような動きを促進する目的で、社会的企業投資基金ファンド (Social Enterprise Investment Fund) の設立のために1億ポンドを拠出した。

 このオルタナティブな発展戦略のヴィジョンやイギリスが今も成長を続けている証拠について考えることは、発展途上国、中でも特にタイにとって、真に価値のあるものであろう。タイの経済成長は、ビジネスを寡占するごく少数の一族に集中しているため、前記の通り所得格差が拡大を続け、またその成長は、自然環境やコミュニティに基づいた暮らしといったものの大規模な破壊という犠牲の上に成り立っているという、よくあるパターンを描いている。ここ数年に及ぶ大規模な社会的混乱は、かかる不均等で偏った成長に起因する不平等によって激しく駆り立てられたものである。社会企業には、経済、社会、自然環境の持続性において、非常に優れた有用性があるため、現在のタイの政治的・経済的課題に対して重要な解決策の一つとなりうる。

[訳注3]たとえば、ビッグイシューという社会企業はホームレスに「雑誌の販売」という自立のための仕事を提供し、かつ、それを自らの事業とホームレスの生活の礎と なる収益源とするという新しい形のビジネスを展開している。社会的弱者として排除するのではく、彼らを主体としたビジネスを生み出した。