「自責で考える人は成長する。他責で考える人は成長しない」は本当に正しいのか? 確かに自責思考は本人を成長させるが、組織の成長にはつながらない。スキルを属人化させずに、環境や仕組み自体を更新していくには? ベストセラー『職場の問題地図』の人気業務改善士が生産性向上のコツを教える。新刊『チームの生産性をあげる。』から一部を紹介。
自責主義は危ない!
問題が起きたら「組織の仕組み」を疑う
「自責で考える人は成長する。他責で考える人は成長しない」
新入社員研修などの若手社員教育の場で、講師が力説するおなじみフレーズ。これ、ダウト! 確かに自責は大事です。人のせいにばかりしている人は成長しません。しかし、自責でしか考えないのもまた問題です。
たとえば、ある人がデータの入力ミスをしたとしましょう。自責思考が強い人の行動パターンはこうです。
自責思考が強い人の行動
ミスをしてしまったのは、すべて自分のせいです。入力する場所を間違えましたし、原価の部分は小数点以下を切り捨てするルールに気づかず入力してしまいました。
次から同じミスをしないよう、フォーマットを紙に印刷して指差し確認します。また、それぞれの数字の入力ルールを指差し確認し、提出前に二重チェックするようにします。この場合、この人のスキルは間違いなくあがるでしょう。
しかし、他の人についてはどうでしょう? 他の人にこの作業をさせた場合、同じミスを繰り返すかもしれません。過度な自責思考は、個人の成長を促す反面、組織の成長を妨げかねないのです。私は「いったん他責で考える」くらいがちょうどいいと思っています。新入社員研修でもそう伝えています。
いったん他責で考える人の行動
ミスをしてしまった。自分が確認しなかったのも悪かった。でも、そもそもこの入力フォーマット、おかしくないですか? この配列、どう考えてもわかりづらいでしょ? 説明文もわかりにくいし。小数点の扱いも入力項目ごとに異なるなんてややこしすぎる。だったら小数点以下は自動で切り捨てされるよう設定しておくべきです。
「いままで誰もおかしいと思わなかったのですか? これは、僕でなくてもミスしますって。フォーマット、変えましょうよ」
……言い方はさておき、仕組みのムダや改善点を指摘できています。他責にする=環境要因や仕組み、仕事のプロセスの問題点を指摘すること。ここを改善しないことには、
・また同じ失敗をするかもしれません
・他の人が同じ失敗を繰り返すかもしれません
自責思考は、本人を成長させます。しかし、本人以外の、組織の成長にはつながりません。また、そのスキルは属人化します。属人化させてしまうと、環境や仕組み、仕事のやり方のムダやリスクが顕在化しにくくなります。
加えて、自責でばかりで考えさせる組織風土は、本人のストレスにもなります。どう考えても環境や仕組みが悪い場合もあるでしょう。時には大いに愚痴を言うのも大事。自責の念にかられ、ストレスを溜めると本人の生産性も組織の生産性も下げます。
過度の自責思考は、精神衛生上も、組織の生産性を考える上でもよろしくありません。
「優秀なプレイヤーは、自責で考える。優秀なリーダーは、いったん他責で考える」
他責思考も忘れずに! 以上、ムダに気づくための観点を紹介しました。日頃当たり前と思っている業務を、さまざまな角度から眺めてみる。常識や定説を疑ってみる。そんな自由な発想こそが、ムダ発見の秘訣です。多少の遊び心も交えて、宝探ししてみましょう。
(この原稿は書籍『チームの生産性をあげる。――業務改善士が教える68の具体策』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)