「既視」を増やそう
「どこかで見たことある」が生産性をあげる

 そうはいっても、企画業務など二度同じ仕事が発生しにくい業務の場合、仕事の既知/未知の判断が難しいかもしれません。その場合、「既視」感を増やす工夫をしましょう。

「そういえばこの案件、たしか清水さんが似たようなテーマで客先に提案していたな」
「前に相良さんが作っていたプレゼン資料、あれ流用できるかもしれないよ」

 以前、どこかで見たことがある。この既視感があるだけで、仕事を進めるヒントや手がかりを得やすくなります。私がNTTデータに勤務していたころ、所属部署では毎月「マンスリーミーティング」が行われていました。水曜日の夕方からおよそ1時間、フロアのオープンスペースで毎回発表者を決め、プロジェクトの学び、客先への提案内容、最新の技術、成功事例や失敗事例などの共有と質疑応答をします。終了後は、そのまま親睦会。職場のコミュニケーションも深まります。

 これにより、部署の誰にどんな知識や経験があるのかを社員同士で仕入れることができます。すぐに効果は出ませんが、じわりじわりと利いてきます。

 私自身、自分が事例発表をして数カ月たったある日、「あのときのあの話、もう一度聞かせてもらえませんか? いま、似たような案件で困っていまして……」と他チームの社員から声をかけられたことが何度もありました。

「既視感」をメンバー間で増やしていく。いわゆる「ナレッジマネジメント(知識管理)」の本質であり、チームの生産性向上とコミュニケーション活性化に貢献します。これは、「減らす」一辺倒の働き方改革では到底実現できません。

 請負型システム開発の会社やコンサルティング企業では、過去の提案書の資料を検索しやすい形でデータベースに格納し、イントラネットを通じて社員に公開している事例もあります。新たな資料が登録される都度、事務局がキーワードを並べてメールマガジンで社員に送信するなど、情報を社員にプッシュする工夫をしている会社も。

「あ、どこかで見たことある……」

 この既視感が、すでに社内にある知識の再発見と活用を促進します。1人で悩む時間やムダがなくなり、生産性と企業競争力の向上につながります。

 業務効率化や生産性向上を目指すとき、「業務マニュアルを作ろう!」となりがち。そして路頭に迷いがちです。ルーチン業務ならさておき、企画業務、提案業務、研究業務など繰り返し性の低い業務はそもそもマニュアル化しにくく、マニュアルを作っても使われないので、作るモチベーションが起きない。

 無理してマニュアルを作る必要はありません。むしろ、インシデント管理簿に過去の仕事の概要や知識のありかを書きとめておく。定期的に取り組みを共有して「既視感」を増やしておく。過去の資料を取り出せるようにしておく。このほうが現実的で、かつ効果があります。

 なお、具体的なインシデント管理簿の作り方や実践事例については、新刊『チームの生産性をあげる。』で詳しく紹介していますので、ご関心のある方はぜひ書籍をお買い求めください。

(この原稿は書籍『チームの生産性をあげる。――業務改善士が教える68の具体策』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)