郊外一戸建てで待ち受ける
老後のリスク

 前ページでも触れましたが、住み替えのトレンドとなっているのは、「郊外の一戸建て」から「都心型のコンパクトなマンション」への買い直しです。その根底にあるのは、郊外の一戸建てに住み続けた場合に予想されるリスクです。大きく3つあります。

☆老後のリスク(1)「体力の衰えによる不自由な暮らし」
 年齢とともに体力が低下してくると、郊外の一戸建てを維持し、暮らしていくのは大変です。

 掃除一つとっても、重い掃除機を手にして階段を上り下りしなければなりません。窓の数も部屋数に比例して多く、拭き掃除もひと苦労です。子どもが巣立った後の空き部屋は特に使い途もなく、それでいて換気や掃除の負担はなくなりません。

 また、大きな庭があれば、春から秋にかけては草取りや水やり、冬には落ち葉掃きや雪かきなど、重労働が待っています。自宅前の掃除やゴミ当番などは義務みたいなものです。

 加えて足腰が衰えてくるにしたがって、病院やスーパーに行くのも億劫になりがちです。転倒をきっかけに長い距離を歩けなくなったり、要介護状態になったりすることも起こりえます。

 このように若くて元気なうちは気にもしなかった、家の広さや立地条件が、日々の暮らしに重くのしかかってくるのです。

☆老後のリスク(2)「無駄なコストが生活と貯金を圧迫」
 郊外の一戸建てを都心のマンションと比較した場合、余分なコストが発生しがちです。家が広いぶん、冷暖房の利きが悪くて電気代がかかったり、庭木の剪定を業者へ依頼する必要があったり、駅や商業施設から離れていれば、車のガソリン代やバス代も日常的にかかることになります。さらに、古い一戸建てであれば修繕費もかかるし、バリアフリー化のためにリフォーム工事を余儀なくされるかもしれません。

 生命保険文化センターの調べによれば、夫婦2人で老後にゆとりある暮らしを送るためには、月々34万9000円の生活費が必要とされています。夫婦の厚生年金の受給モデル金額約22万円(平成28年度)から約13万円不足するという金額です。
 おもな収入源が年金にしか頼れない人にとって、月々の生活費のわずか数万円の違いが死活問題となりかねません。

厚生労働省の「簡易生命表」で、おもな年齢の平均余命で何歳まで生きるか見てみよう。今の自分の年齢に平均余命を足すとわかる
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 ところで、あなたはご自身が何歳まで生きるか、ご存じでしょうか? 平均寿命は男性で80.79歳、女性で87.05歳(厚生労働省 平成27年「簡易生命表」)となっていますが、この平均寿命は、生まれてすぐに亡くなった人もすべて含めて算出されたものです。そのため、現時点で生存している人は、実際にはもっと長生きします。
 そこで、あと何年生きるのかを知るための目安になるのが「平均余命」です。下の表をご覧ください。たとえば現在65歳の女性の場合、余命から計算すると、平均で89歳まで生きることになります。平均寿命より約2年長生きするのです。

 特に女性は2人に1人が90歳、16人に1人は100歳まで生きる時代です。そのため、「長生きしたことで貯金が尽き、やがて老後破産してしまう」というリスクがそうでなくても高まっています。将来の安心のために、削れるコストは少しでも削っておきたいところです。

☆老後リスク(3)「買い手のつかない負の資産化」
 マンションよりも一戸建てを選んだ理由に、「資産性」を挙げる人は少なくありません。たしかに、市場価格で資産価値が決まるマンションよりも、土地価格で決まる一戸建てのほうが安心というのが、従来の考え方でした。

 ところが、現在、空き家率は過去最高の13.5%(平成25年 総務省「土地統計調査」)。20年後には30%を超えるという予測もあります。いくら土地があっても、いざというときに買い手が見つけられなければ、実質的な資産価値はゼロと同じです。
 子どもに財産として残してあげるつもりが、逆に残すことで迷惑をかけることになるケースも出てきています。
 たとえば、
「郊外で通勤に不便なので住めない。賃貸に出したり、売りに出したりしたいが、借り手も、買い手もつかない」
「空き家のまま放置するわけにもいかず、手入れ・管理が大変」
「かといって、空き家を壊して更地にするには解体費用がかかる」

 都心のマンションであれば、これらの問題で頭を悩ませることがないため、売れる今のうちに、一戸建てを処分する人が増えているのです。