国民は放射線専門家が想像しているほど馬鹿ではない。資本主義市場経済はリスクとリターンに支配されており、社会人ならばだれでもそのように行動している。学者は違うかもしれないが。

 専門家がわかっていないのは、原発事故による放射能汚染とは、まったくベネフィットのないリスクであり、通常の社会生活におけるリスクに、上から覆いかぶさったとんでもなく馬鹿げたリスクだということだ。

 ICRPが1mSv/yという厳しい数値を置いているのは、一般公衆にとってリターンが何もないリスクだからだ(原発作業者の限度量をはるかに高くしているのは給料というリターンがあるからである)。

 自然災害もリターンのないリスクだが、原発事故は天災ではない。事故の想定を甘く見ていた専門家の責任である。

 「クルマを運転して事故にあうリスクがあるのに、人々はクルマを運転している。それに比べればこの程度の放射線リスクはたいしたことない」と、ある専門家が発言しているのを聞いて驚いた。クルマを運転するのはリスクがあるが、それ以上のリターンがあるからに決まっている。

 さすがに最近は、電気のベネフィットがあるだろう、という専門家はいなくなってきた。これまで「原発は絶対安全」といってきたわけだから、本来リスクフリーだったのである。

 こんな発言もどこかで読んだぞ。

 「だれでも飛行機に乗る。その際、リスクの高い航空会社を避ける。最後はリスクを取って搭乗する。放射線リスクと避難の経済的リスクを総合的に考えるのは同じことだ。」

 飛行機に乗ることと原発事故の放射線リスクを比較すること自体バカバカしいが、市民が放射線リスクと他のリスクを比較しないのは、放射線リスクにはリターンが何もないので、リスクのポートフォリオをつくることができないからだ。

 では、どうすれば市民は安心できるのだろうか。

 初めて明確に答えてくれた専門家が以下に紹介する児玉龍彦・東京大学先端科学技術研究センター教授である。

 7月27日の衆議院厚生労働委員会に参考人として出席した6人の専門家の一人である。児玉氏の発言はインターネット上で話題となった。すでに発言を読んだりビデオを見た読者も多いだろう。