英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週もまた原発についてです。福島第一原発の周辺地域は当分の間、安心して暮らせるようにはならないだろうと、政府がやっと認めたことについて。認めれば認めたで、今まで隠していたのかと疑われてしまうわけですが。(gooニュース 加藤祐子)

やっと認めた

 文部科学省が19日に公表した放射線モニタリング結果(リンク先はPDF)を受けて、政府は、福島第一原発の直近地域の居住禁止措置を最低でも10年は続ける方針だと広く報道されています。枝野幸男官房長官は22日午前の記者会見で、「除染を精力的に進めるが、そうしてもなお、長期にわたって住民の方々にお戻りいただくことが困難になってしまう地域が生じる可能性は否定できない。大変申し訳ない」と陳謝しました。

 直近の地域に戻って住むのは当面難しいのではないか……。原発事故の規模が明らかになるに連れ、多くの人がそう懸念していたのではないかと思います。原子物理学や放射線学の専門家ではないので、なかなかうかつに口にできなかったけれども。その懸念を、政府がいよいよ認めたわけです。

 本当に危険なことについて本当に危険だと認めてくれなければ、「この量の放射線ではただちに健康被害はない」などと言われても信頼できない。本当に客観的に冷静になるべき部分でも、冷静に客観的になれないではないか。そう危惧していました。なので、原発付近の地域は当分住めないと政府がやっと認めたのは、信頼性という意味では良かったと思います。時すでに遅しかもしれませんが。政府の言うことなんかハナから何一つ信じるものかと決めてしまった人たちは、政府が何を言おうと信じないでしょうし。

 それにいくら政府が周辺地区の長引く危険性を認め、賠償措置を検討しはじめたとはいえ、故郷から、自宅から、元の生活からあまりに唐突に引き離されてしまった方たちには(そして動物たちには)、最早なんと言っていいのか。福島第一原発が作る電力を使っていた東京の人間として、なんとお詫びしたらいいのか……。

 米紙『ニューヨーク・タイムズ』は、原発付近のコミュニティーが長期にわたって人が住めない場所にならざるを得ないことは「科学者や一部の関係者が何カ月も前から警告していたことだ」と書いています。

 AP通信は福島第一原発を「来年1月までに冷温停止させるという政府の工程表は、その直後に家に戻れるかもしれないと、住民たちの期待感を高めた。しかし(文科省の最新データによると)それは当分、難しそうだ」と書いています。

 英紙『フィナンシャル・タイムズ』も、「原発安定化と周辺地域の除染作業を重ねても、地元コミュニティーは安全に住めるようにはならないと(政府が)認めたことは、早ければ来年にも地元に戻れると期待していた住民たちにとって打撃となる」と書いています。

 米誌『タイム』の記者ブログも、「このところ福島第一関連のニュースは朗報が多かった」と前置きし、原子炉内の温度も放射線量もコントロールできていて、放出される放射性物質の量も事故直後の1000万分の1と大幅に減っていると説明した上で、「しかし福島の苦難は終わりからはほど遠いし、誰もが思ったよりも長く続くかもしれない状況だ」と。

 そして英紙『ガーディアン』も、「住民は放射能汚染された自宅に戻れないかもしれない」という見出しで、「少なくとも一世代は原発付近に戻ることができないと、政府が公式に認めることになる。これはつまり、ずっと戻れない住民もいるということだ」と書いています。

 さらに同紙は、「数カ月前に政府当局は内々ではこの状況を認めていたのではないかという疑いは消えない」と釘を刺します。4月半ばの時点で松本健一内閣官房参与が、首相が「(福島第一原発の)周囲30キロ、場合によっては30キロ以上のところも、10年、20年住めないことになる。再び住み続けるのは不可能だ」と語ったと明らかにした時の、あの騒ぎが念頭にあるからです。

 原発からの距離は違うけれども、要するに放射線量が基準値を超えて高い地域は当分住めない。今回政府が認めたのとほぼ同じようなことを、4月の時点で首相が参与に内々に語った……と、参与が記者団に語った。その伝言ゲームを首相がただちに否定し、松本氏も「私の推測だ」と発言を撤回した。そしてそれから4カ月後、撤回した内容とよく似たことを政府が認めたわけです。

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