新聞記者が一瞬で記事を書ける理由
私が、ブックライターとして一番重視しているのは、書く前の準備。つまり「取材」です。
取材とは「素材を集めること」であり、「聞く仕事」です。取材でどんな素材を集められるかによって、原稿のクオリティが決まります。
いい素材が手に入らなければ、絶対に、いい文章は書けません。
たとえば、記者がなぜ取材するのかといえば、文章の素材を獲得するためです。日常的な記者発表記事からスクープ記事まで、彼らは、足を使って常に素材を集めています。
そして記者たちは、素材がそろった瞬間に記事を書き始めます。特に1分1秒を争うスクープ記事の場合には、いかに速く書き終えてリリースするかが他社との勝敗を分けます。十分な素材を集めたとき、いわゆる「裏が取れた」とデスクが判断したとき、記者は猛スピードで記事を書き上げます。
つまり、新聞記者でさえ、十分な素材がないと文章を書けないのです。もちろん、文章を書き慣れている記者たちは、書くスピードそのものが速いでしょう。いわゆる「速記力」がある。しかし、その前段階として、素材がなければ書けません。素材を用意せずに文章を書き始めようとする人は、新聞記者でもできないことをやろうとしているのです。
私も、素材がなければ文章は書けません。もっと言えば、書きません。ライターなのだから何でも書けるだろう、と思われがちですが、そんなことはない。文章を書くことが決まったら、まずやるのは素材を探すことです。
日常的なビジネスで書く文章に「取材」なんて大げさだ、と思われるかもしれません。「取材なんてしてるヒマなんかない」というケースもあるでしょう。
でも、そんなことはないのです。記者会見に行ったり、政府の要人に話を聞いたり、事件現場に張り込むようなことだけが取材ではありません。素材は、思ったより身近にあります。それをいかに見つけるか。ピックアップできるか。ひっぱりだしてこられるか。それが文章を書くスピードを大きく左右します。
たとえば、小学校の授業参観や学習発表会に行くと、親が感想文を書く機会があります。
この感想文に、頭を悩ませる親が少なくありません。父親の集まりがあったとき「どんなことを書いているのですか?」と尋ねられました。自分の子どもの担任に提出する感想文です。みっともないことは書けないでしょう。
かといって、何を書いていいかわからない。
悩んでいるうちに、貴重な休日の時間がすぎ去ってしまう……。
そこで、当時の私が何をしていたかと言えば、感想文を書くことがわかっているのだから、参観日当日に、そのつもりで学校中を観察して素材を集めていただけです。
学校の雰囲気は、自分が小学生だった頃と比べてどう違ったか。
どんなものにハッとしたか。気になった展示物はどんなものだったか。
子どもがどんな発言をしたか。黒板には何が書かれていたか。
壁に貼り出された習字には何と書いてあったか。教室の匂いはどうだったか。
そして、それを自分はどんなふうに捉えたか、どう思ったか。
そういうことを、すべてスマホにメモしておいたのです。
それが、そのまま感想文の素材になります。そのメモをベースに書いていくだけ。
家に戻ってから「何が印象に残ったんだっけ?」と、あとから思い出そうとするから悩むし、時間がかかる。
素材があれば、少なくとも「何を書けばいいかわからない」という悩みは消えます。
私が特別なのではありません。「文章を速く書ける人」がやっているのは、要するにそういうことだと思っています。素材を見つける大切さを知っているのです。
文章を書くことが決まった瞬間から、常にアンテナを立てている。
そして、どんどん素材を集める。
そうすれば、書く前に、書く内容が準備されている状態になる。
だから、困らず、速く書けるのです。
具体的に、どういう事柄が素材に当てはまるのか、そしてどのように素材を超速で文章化していくのかについては、『超スピード文章術』で詳しく解説しています。ぜひ、ご覧になって使い倒してみてください。