ドラマとはトラブルなんです。基本は対立。
だから、夫婦の物語に絞りました。

――原作にも出てきますが、ドラマでは、原作以上に激しい夫婦ゲンカも見所のひとつと聞いています。どんなドラマにしようとお考えになりましたか。

 ドラマというのは、トラブルなんです。ドラマはギリシャ語で二律背反という意味。右にも左にも行けない。そういう場面を作らないと劇にならないんですね。基本は対立。だから、夫婦の物語に絞ることにしました。

 実際、夫婦というのは対立するんです。松下幸之助さんだって、間違いなく、夫婦ゲンカをしたはずなんですよ。みんながケンカするみたいにね。

 夫にとって妻というものは、結婚したときには、それはもう、食べてしまいたいほどにかわいいものなんです。ところが時が経っていくとね、ああ、やっぱりあのとき食べてしまえば良かったと、思うもので(笑)。

 みんなそう思っているんです。だんだん良くなっていく女房なんていないんだから(笑)。だんだん強くなっていくのが、女房なんだから。

 幸之助さんでもそうだったんだ、と思いますよ。だから、みんなが納得しつつ、親しみを持って見てもらう。全体としてそういう方向かな、と思ったんですね。

――あの松下幸之助でも、奥さんにはタジタジだった、と(笑)。

 これは僕のあくまで想像なんですけどね。幸之助さんにとっては、むめの夫人はとんでもなく怖い奥さんだったんじゃないかと思うんですよ(笑)。

 幸之助さん夫婦の場合は、夫が思わぬ出世をしてしまったわけですね。だから、女房はどうしたのかというと、しっかり支えたわけです。たしかにこれが、幸之助さんのさらなる出世を支えた。

――人間を深掘りしていくんですね。

 ドラマというのは、人間を書かないといけません。人間の性格と感情がしっかり出るように作っていくわけです。人間というのは結局、食欲と性欲が基本なんですよ。

 食欲というのは何かというと勝ち負けの世界なんです。食料を争って戦って、どちらが奪うかを決める。殺すか、手下にするか。そこから始まる。つまりは、敵が誰なのか、ということです。

 もうひとつ、性欲というのは、種族保存本能です。相手がいる、ということですね。男は誰で、女は誰か、ということ。

 つまり、主人公を描くときには、敵は誰か。男もしくは女はどうか。この2つが基本になるんです。

 人間が他の動物よりもちょっとだけ偉いのは、この2つが暴走しないようコントロールする装置を作ったことです、昔は神様で、今は法律だったり、常識だったり。だから、この2つをどうコントロールするのかが、その人の人格なのではないか、というのが僕の考え方なんです。