欠点は魅力なんです。欠点は直さないほうがいい。
――その法則を、幸之助夫妻にあてはめてみると、ということですね。
どうして幸之助さんは20歳の若さで結婚をしたのか。まず、これが疑問でならないわけです。僕はこう思っています。もしかしてそれは、種を早く残さないといけない、と考えたんじゃないかと。
これは原作でも出てきますが、相手は誰でも良かった、と幸之助さんは言っているわけですね。そうでないと、20歳で、貧乏で、借家住まいなのに、大急ぎで結婚する、などという理由が見つからないわけですよ。やっぱり種を残したかったんだと思うんですよ。
これで、敵と種族保存欲求が成立するわけですね。
それは、どうして無一文の幸之助さんに嫁いだのか、という、むめの夫人に対する僕の疑問にも、やがてつながっていくわけですね。
――本当の物語は決して美談などではない、と。
テレビドラマを見ているのは、女性なんです。日本の人口1億3000万人のうち、ドラマ人口は2000万人くらいではないでしょうか。大人の男は、あまりドラマを見ない。大河ドラマくらいではないですか。男の人は好きな人は好きですが、そんなにテレビドラマを見る大人の男は多くないと思います。
そうなると、女性の視聴者ということになる。昔は、ドラマは35歳の主婦を対象に書け、と言われていました。でも、今は高齢化していますから、50歳くらいの女性でしょうか。
今回はむめの夫人が主役になるわけですが、女性はそれを見て、私と同じだ、と思う人が多くないといけないわけですね(笑)。それだけ、単にいい人には描いていないということです。これは、幸之助さんも同じです。そうでないと、共感は得られないんですよ。
持ち上げ過ぎると面白くない。そういう現実がある。ただいい人で、素晴らしい人だ、ではドラマにはならないんです。だから、二宮金次郎のドラマはないでしょう。
――でも、描かれている夫婦の姿は、とても魅力的です。
実は欠点は魅力なんですよ。むしろ欠点がないと、人は魅力に感じないんです。欠点をどうエンジョイするか。それこそ実は人間には問われるんですね。
僕は、欠点は直さないほうがいいと思っています。だって、欠点こそが魅力なんだから。そして人は劣等感を持っていますね。必ず持っているんです。では、劣等感は何かというと、それは欲望だと思うんですよ。何か劣等感があると、その人の欲望が見えてくるんです。劣等感は欲望の裏返しなんです。そしてそれは、誰にでも必ずある。
美人女優さんだってそうですよ。出っ歯気味だから下から撮らないで、という人がいる。足が太いから足は撮らないで、という人がいる。左側は嫌だから撮らないで、という人もいる。美人女優ですらそうなんです。そういうところに、人間の面白さがある。
伊達政宗は田舎大名で乱暴者で弟を斬り殺した過去を持っていました。生涯、それをコンプレックスにしていた。でも、だからこそ、出てくる人間的魅力があるわけですね。
立派な人が立派なことを言っても、面白くもなんともないんです。それでは誰も見ない。妬みや恨み、劣等感や欲望、そういう人間臭いところこそが大事。ドラマは、そういうところにこそ潜んでいるし、それを多くの人に知ってほしいんですよ。