図面を引き、材木も建具も自分で調達
亭主が手を入れた店内は江戸の匂いがする

「江戸の遊びをもう20年続けてきたけど、まだまだかな。」

 亭主の島田義昭さんがこう語った。蕎麦職人でここまで江戸の遊びにこだわる人に初めて出会った。蕎麦職人というより、心根には江戸職人の気概が先にある。

亭主の島田義昭さん。半襦袢を仕事用にあつらえる。蕎麦屋歴27年、包丁は自己流だというが、築地市場に入ったこともある。島田さんがたどり着いたのは、江戸の食文化と職人の気風。

 店は玄関を開けると靴を脱いで上がる。カウンターのオープンキッチンにいる島田さんは客がくれば、そこからすぐに客の判別ができる。

 島田さんはオーダーで作る半纏と半襦袢の合いの子のようなものをはおり、客に声をかける。江戸中期に職人たちが自分らの仕事着を見栄えよくあつらえたように、自分にぴったりくる仕事着を仕立てている。

 平成16年に埼玉からこの神楽坂に店を移した。前店もそうだが、材木も建具も自分で調達して、図面も自ら引いて大工と相談しながら造作した。

 一番にこだわったのが木の材質。客の往来に歩き板がトンと響くような張りのあるものにしたい。しかも、使い込むほどにしっとりした色艶を出したかったという。

いたるところに江戸の匂いがする店内。最初の店舗から自分の手を入れて造ってきた。もう3店舗目だから客が自分の目の届く範囲で饗応できる造作になっている。

「自分の手が入った店だと、客を迎える気持ちが違うんじゃないかい」と島田さん。カウンター越しの声がよく通る。

 店の飾り箪笥には江戸の中期物を中心として、蕎麦猪口、皿、椀物などがびっしり埋まっている。数寄者なら暫くは眺めていても飽きないだろう。