しかし、残業代カットのための管理職任命は、チェーン店の店長ばかりではありません。「残業代が多すぎる」という会社側の判断で管理職に昇進させられたという例はほかの業種でも多数見られます。
会社のつける役職名は関係ない
残業代不要の「管理監督者」とは?
労基法は、「監督若しくは管理の地位にある者、または機密の事務を取り扱う者は労働時間、休憩、休日についての規定を適用しない」ことを定めています(41条)。つまり、管理監督者には法定労働時間がないので、法律上の残業は存在しないことになります。
ここで問題になるのが、労基法でいう「管理監督者とはどういう立場か」ということです。全社員の7割が任命されている「店長」は、それに当たるでしょうか。一般の会社の「主任」や「係長」はどうでしょうか。
この疑問に対しては、1988年に労働省(当時)から通達が出ており、数々の判例もこの通達が判断基準になっています。
要約すると、管理監督者とは「部長や工場長など労働条件の決定やその他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」のことです。自由裁量の余地は相当大きくなければなりません。会社がつけた役職名は関係ありません。
2008年には、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛に「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」という通達が出され、1988年の通達の趣旨に沿った基準が示されました。
普通に考えれば、係長が経営者と一体になって賃金を決めたり昇進を決めたりする立場にあるとは誰も思わないでしょう。多店舗展開する直営店の店長は、アルバイトの採用や時間給を決めることがあっても正社員の採用や労働条件を決める立場にはありません。
したがって、名ばかりの管理職が声を上げれば、会社は是正せざるをえないはずです。もっとも、こういうことを言い出すと、会社から白い目で見られ、ひどい場合はさまざまな冷遇を受けるケースが実態としてあることも否めませんが……。