M&Aが成功する確率は10~30%ときわめて低く、その大半が失敗している。なぜだろう。多くの場合、適切とはいえない買収先を選択しているばかりか、過剰な買収価格を支払っている。くわえて、買収後の組織統合がまずいケースも少なくない。
そして筆者らによれば、被買収企業の経営資源(顧客基盤、ブランド、技術、知財、スキルやノウハウ、営業拠点等々)を手に入れるためにM&Aに踏み切る──彼らはこれを「レバレッジ・マイ・ビジネスモデル型M&A」(自社のビジネスモデルのテコ入れ)と呼ぶ──ことこそ、そもそもの間違いであるという。そうではなく、「リインベント・マイ・ビジネスモデル型M&A」、すなわち自社のビジネスモデルを刷新するために、あるいはコモディティ化から逃れるために、他社の「破壊的ビジネスモデル」を買収すべきであるという。
アップル、シスコシステムズ、EMC、ヌーコア、ベスト・バイ、ダイムラー・ベンツなど、有名事例を遡りながら、これまでの常識とは異なるM&A戦略を解説する。
M&Aの成功率はなぜ低いのか
Clayton M. Christensen
ハーバード・ビジネス・スクールのキム B. クラーク記念講座教授。
リチャード・アルトン
Richard Alton
ハーバード・ビジネス・スクールのフォーラム・フォー・グロース・アンド・イノベーションの上席研究員。
カーティス・ライジング
Curtis Rising
マサチューセッツ州ケンブリッジにある、外的成長(M&Aによる成長)やマネジメント・システムの評価サービスを提供するコンサルティング会社、ハーバードスクエア・パートナーズのマネージング・ディレクター。
アンドリュー・ワルデック
Andrew Waldeck
マサチューセッツ州ウォータータウンにある、イノベーションと戦略に関するコンサルティング会社、イノサイトの共同経営者。
CEOが、業績を伸ばしたい、あるいは長期的成長に向けて心機一転を図りたいと考えているならば、企業買収というアイデアは何とも魅力的であろう。実際、アメリカの企業買収総額は毎年2兆ドル超に上る。その一方、M&Aの失敗率は7~9割に達するという調査結果が後を絶たない。
このような惨憺たる統計結果を説明しようとして、多くの研究者たちが、通常うまくいった案件とそうではない案件について、各固有要因を分析してきた。しかしそこには、我々が思うに、成否の原因を解き明かす盤石な理論は存在しない。
本稿では、その理論を提示していく。かいつまんで言えば、次の通りである。このように期待を裏切る買収が多いのは、経営陣が、既存業務を改善する買収と、自社の成長見通しを抜本的に改革する可能性を秘めた買収を見分けられないせいで、戦略の目的から外れた買収相手を選んでいるからである。その結果、きわめて多くの企業が、不適切な対価を支払い、買収後の統合で下手を打つ。