当座の業績を改善するために

 経営者の第一の仕事は、業務のパフォーマンスを向上させることで、短期間で結果を出して投資家の期待に応えることである。

 投資家がこうした経営者の労に報いることはまずないが、経営者が自分たちの期待に応えられない場合には、株価を通じて容赦なく罰する。そこで経営者は、利益方程式の成果を向上させようとしてLBM型M&Aに向かう。

 LBM型M&Aを成功させることで、買収企業は自社製品の価格を引き上げたり、コストを削減したりできる。至極簡単に思えるが、買収企業が被買収企業の経営資源を、このどちらかの目標を達成するために利用する場合、その条件ははっきり分かれる。

価格プレミアムを獲得するために経営資源を買収する

 価格プレミアムを獲得する最も確実な方法は、まだ改良する余地のある製品やサービス、言い換えれば機能性を高めれば顧客が財布のひもを緩めるような製品やサービスを改良することである。

 この作業は、実のところ、自社製品と互換性があり、改良が施されたコンポーネント(素材や部品)を購入することで日々行われている。こうしたコンポーネントが入手できない場合には、必要な技術や人材──通常は、知的財産権、そのような技術を開発している科学者やエンジニアになる──を金で調達することが、内部開発するより製品を改善する早道である。

 アップルが2008年、半導体設計会社のPAセミ(かつてのパロアルト・セミコンダクター)を2億7800万ドルで買収したのはその一例である。

 アップルはこれまでずっと、独立系サプライヤーから半導体を調達してきた。しかし、他の携帯端末メーカーとの競争においてバッテリー寿命の重要性が高まるなか、アップル製品向けに特別仕様の半導体を設計しない限り、電力消費の最適化は難しくなった。つまり、アップルは、価格プレミアムを維持するために、技術と人材を購入し、半導体の設計力を内部開発する必要に迫られたのである。これは当然の行動といえる。

 シスコシステムズも、同様の理由で買収に依存してきた。同社の専売特許といえるその製品アーキテクチャーがずっと最先端を走り続けられるように、小さなハイテク企業を買収し、その技術とエンジニアたちをシスコの製品開発プロセスに充当してきた(囲み「買収によってプレミアム価格を設定できるか」を参照)。