何を買収するつもりなのか
買収の成否は、買収後の統合作業にかかっている。どのように統合を進めていくのか、その見通しを得るには、「何を買収するつもりなのか」について正確に説明できなければならない。我々が見出した一番の方法は、買収候補をビジネスモデルの観点から考察することである。
我々の定義では、ビジネスモデルは、相互に依存する4つの要素から成り立っており、これらが価値を創造し、顧客に届ける。
顧客へのバリュー・プロポジション(提供価値)
顧客が、ほかのものより効率的かつ手軽に、あるいは手頃な価格で重要なジョブを処理する一助となる製品やサービス。
利益方程式
これは、収益モデル(売上げを稼ぎ出す仕組み)と原価構造から成り立っており、利益、または事業を継続するための現金をどのように稼ぎ出すのかについて、具体的に示す。
経営資源
従業員や顧客、技術、製品、設備、そして現金など、顧客へのバリュー・プロポジションに利用するもの。
業務プロセス
製造やR&D、予算編成、そして営業などである(注)。
環境さえ整っていれば、これら四要素の1つ、すなわち被買収企業の経営資源を抽出し、買収企業のビジネスモデルに埋め込めるだろう。なぜなら、経営資源というものは企業から切り離しても存続しうるからである(企業は明日にも消滅するかもしれないが、それでも経営資源は残る)。こうした買収を、我々は「レバレッジ・マイ・ビジネスモデル型M&A」(LBM:自社のビジネスモデルをテコ入れするためのM&A)と呼ぶ。
しかし、被買収企業のビジネスモデルを構成する残りの三要素もむろん自社のビジネスモデルに利用できる、というわけではない。逆の場合、すなわち買収企業のそれらを被買収企業に移植する場合も同様である。利益方程式や業務プロセスは、組織と切っても切れない関係にあり、ほとんどの場合、分解するとおかしくなってしまう。
他社のビジネスモデルを買収し、改革による成長のプラットフォームとして、統合せずに運営することも可能である。これを「リインベント・マイ・ビジネスモデル型M&A」(RBM:自社のビジネスモデルを刷新するためのM&A)と呼ぶ。以下で見ていくように、経営資源よりもビジネスモデルを買収したほうが、潜在的成長力ははるかに大きい。
ビジネス・リーダーの多くが、経営資源を買収すれば目を見張るほどのリターンがもたらされると思い込み、それゆえ法外な買収価格を支払う。また、こんなこともある。ビジネスモデルを改革する可能性を秘めた案件であるにもかかわらず、買収価格が高すぎると見誤り、手を引いてしまう。あるいは、成長性の高いビジネスモデルを自社のビジネスモデルに統合し、その価値を壊してしまう。
このような誤解はよくあるものだが、その原因を理解し、回避する方法を知るために、前述した買収における2つの目標、すなわち「当面の業績改善」と「ビジネスモデルの刷新」をどのように実現するのか、さらに詳しく見ていこう。
【注】
このビジネスモデルを構成する概念については、Mark W. Johnson, Clayton M. Christensen, and Henning Kagermann, "Reinventing Your Business Model," HBR, December 2008.(邦訳「ビジネスモデル・イノベーションの原則」DHBR2009年4月号)を参照。