端的に申し上げれば、企業買収の理由は2つなのだが(囲み「コングロマリット化に関する一私見」を参照)、ビジネス・リーダーたちはこれらをしばしば混同する。

 第一に、最も一般的な理由として、目先の業績改善が挙げられる。このような買収は、有利なポジションを獲得する一助となる一方、コスト削減に寄与する。しかし、これらの恩恵にあずかっても、株価が大きく振れることは稀である。なぜなら、こうして業績が好転しても、それは投資家の予想の範囲内であり、したがって割り引かれてしまうからである。この種の買収では、非現実的な期待を抱くCEOが多く、過剰な買収価格を支払ったり、いかに被買収企業を統合するかについて無知だったりする。

 第二の理由として、これはそれほど一般的ではないが、自社のビジネスモデルの刷新を図り、それにより自社の方向性を抜本的に変更することが挙げられる。とはいえ、この目標を達成するためにどうやって最高の買収候補を選び出すか、どれくらい買収価格を支払うのか、どのように統合を進めるのか、いやはたして統合すべきなのかといった問題について、ちゃんとわかっている経営者はほとんどいない。しかし、このような買収相手こそ、投資家を混乱させるとはいえ、目を見張るような業績を生み出す可能性がきわめて高い。

 以下では、ビジネス・リーダーに向けて、被買収企業の選択、買収価格の設定、買収後の統合について明確な指針を示し、それにより買収の成功率を劇的に引き上げるため、我々が考えるM&A理論の意味合いについて探っていく。その第一歩は、買収とは何か、その意味をまさしく基礎から理解することである。