インターネットが
60年代のカウンターカルチャー全盛時代に生まれた必然
考えてみると、スティーブ・ジョブズをはじめとするパーソナル・コンピュータの立役者はみな、60年代のアメリカ西海岸を生きています。60年代の西海岸といえば、ベトナム戦争に対する反戦運動や、LSDを中心とするドラッグカルチャー、性の開放運動など、カウンターカルチャーの花々が満開に咲いていました。
もともと軍事予算で開発されたパーソナル・コンピュータとインターネットは、「個人の力を最大化させ、それらをつなぎ合わせる」というコンセプトのもと、カウンターカルチャー全盛の西海岸の土壌で育ち、ついに民間のものとなりました。
それは、「ラブ・アンド・ピース」「パワー・トゥ・ザ・ピープル」をアイコンとするカウンターカルチャーの精神が育んだ希望でもあったのです。
彼らにとって、大企業が作るコンピュータであるIBMに勝負を挑むのは当然のことなわけです。
ジョブズのヒーロー、スチュアート・ブランドが掲げた価値観
「ハングリーでありつづけろ。バカでありつづけろ(Stay Hungry, Stay Foolish.)」
2005年のスタンフォード大学でスティーブ・ジョブズが行ったスピーチの、この印象深いフレーズ。しかしこれが実はジョブズ自身の言葉ではないといったら驚かれるでしょうか?
これは、ジョブズ自身がスピーチのなかで紹介しているように彼の青年時代のヒーロー、スチュアート・ブランドの言葉からの引用です。
ブランドは、その方面に詳しい人々の間では有名な『全地球カタログ(WHOLE EARTH CATALOG)』を出版した人物です。
ジョブズによれば、そのカタログは「60年代のパソコンもない時代、グーグル誕生の35年前に出されたグーグルの雑誌版のようなもので、理想に満ちていて、巧妙な道具や偉大な概念がページの端々からあふれていた」ものだったといいます。
ブランドは、そのカタログで、「DIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)」のスタイルを提唱し、全世界に流行させました。
既製品をただ買うだけよりも、組み合わせを工夫して自分自身でつくったもののほうが愛着もわく。ほかの誰のものとも違うオリジナリティが生まれ、消費者は創作者になれる。
アップルが好き、マッキントッシュを使うというのは、フォントが充実しているとか、デザイン関連のソフトウェアが充実しているとかではなく、コンピュータはパーソナルであるべきであり、「個人の力を最大化させ、それらをつなぎ合わせる」ものであるべきという思想を支持し、価値観を共有するコミュニティに参加することにほかならないことだったのです。
実際、マッキントッシュはウィンドウズよりもはるかに早く一般ユーザーがネットワークを活用できるsmall talkを搭載していました。
つまり、アップルという会社の成り立ちや思想、製品のあり方自体がユーザー関与型のソーシャルな存在であり、商品やユーザーのブランド体験そのものを、広くメディアと考えるのであれば、アップルという会社の存在そのものが、ソーシャルメディアであるということさえできるのです。