『1984年』

 マッキントッシュは1984年に発表されました。

 1984年といえば、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』が連想されます。そこで描かれている世界は壮絶です。作品の舞台では、思想、言語、結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、セックスも党の管理の及ばない独自の世界を創りだすという理由で規制されます。

 市民は党が管理する「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョンによって常にその表情や体温の変化など、ほぼすべての行動を監視されています。発話に関しては、言語統制はもちろんのこと寝言までが処罰の対象とされます。

 主人公はノートに自分の考えを書き記すという、禁止された「日記」行為に手を染め、ついに思想警察に捕らえられてしまいます。

 その年、全米の注目を集めたマッキントッシュ誕生のCMを覚えている読者もいるかもしれません。大きなスクリーンに大写しにされている独裁者を崇める集会に、ひとりの女性がハンマーを持って乱入し、スクリーンを破壊する。

 このCMには次のようなメッセージがテロップに流されました。

 アップルコンピュータは、『マッキントッシュ』を発表します。そのとき、1984年が小説『1984年』のようにはならないということが、きっとおわかりになるでしょう。

 1984年にはBig Brothers(「偉大なる兄弟」)という独裁者が描かれています。奇しくも、コンピュータ界の巨人IBMはそのロゴの色から「Big Blue」と呼ばれていて、念の入ったことにアップルのこのコマーシャルは青いスクリーンであり、これが1984年にインスパイアされただけではなく、IBMを仮想敵として表明していたことは明白です。