つまり強制的にやらせるのではなく、“それとなく”誘導することで、意識させないまま、良い結果へと導こうという考え方である。これは「リバタリアンパターナリズム」とも言われ、強制するわけでも自由放任で任せるわけでもなく、いわばその中間で、人間の心理を利用して有利な方向へ誘導しようという考え方だ。 実際にこれは米国における401kプランにおいて、加入の促進や商品選択の際にも活用されていて一定の効果を出しているようだ。

 元々、米国においては日本と異なり、企業内における401kプランは加入が任意であったため、加入率はそれほど高いわけではなかった。ところが2006年に制度が変わり、それまでのようなオプトイン方式(希望すれば加入する、何もしなければ加入しない)という方式から、オプトアウト方式(何もしなければ自動的に加入するが、非加入の意思を表明すれば入らなくても良い)に変わったことで加入率が飛躍的に向上した。

 これも人間の心理にある「現状維持バイアス」をうまく利用したものだ。現状維持バイアスとは、変えた方が良いことが分かっていても、自ら行動して現状を変えることがなかなかできないという心理を指す。

 この場合、老後の資産形成を考えれば加入した方がいいが、それを自らのアクションでというのが困難であるため、逆に何もしなければ自動加入という方法に変えたのである。結果として、恐らく多くの加入者にとっては、老後資産形成が知らず知らずのうちにできるということになるであろう。 このように行動経済学というのは、現実に人間がどのように考え、どのように行動するかということを実際の実験を繰り返しながら探り、一つの方向を見極めようとするものなので、どちらかと言えば帰納法的なアプローチのものである。

 このやり方が必ずしも良いとは限らないが、少なくとも人間の本質というものは昔も今もそれほど大きく変わるものではないだろう。このように、人間の心理とそこからくる行動を分析して「判断と選択」がうまくいくように役立てようというのはとても納得性が高いし、現実に役に立つ学問であると言っていいだろう。

 今回の受賞を機に多くの人が行動経済学に関心を持ってくれるようになることを期待したい。併せてぜひ本コラムも読んでいただければ何よりである。

(経済コラムニスト 大江英樹)