ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する好評連載。第13回目は、次世代を生き抜くための「子育て本トレンド」について。
フェイクニュースに振り回される世界の選挙
日本でも選挙が終わったところだが、デモクラシーを掲げる欧米各国で行われた最近の選挙で、主にロシア発のフェイクニュースによって混乱が生じているという懸念は、今や当たり前のことになってきた。それにどう対処していくか、という点でどこの国でも真っ先に挙がるのが、「次世代への教育から始めないといけない」という意見だ。
例えばイタリアではフェイスブックなど名だたるIT企業と協力し、学校教育の過程で、どうやってインターネットに氾濫するフェイクニュースや間違った陰謀論を見分け、騙されないようにするかという「ネット・リテラシー」教育プログラムが10月末から開始すると発表されたばかり。
https://www.nytimes.com/2017/10/18/world/europe/italy-fake-news.html
「なぜイタリア?」と思うかもしれないが、イギリスの“ブレグジット”で国民投票によるEU脱退支持が過半数を得たり、スペインでカタルーニャの独立を巡って国内に混乱が起きるなど、近隣国の騒動を傍目にしていることもあるが、振り返ってみれば第一次世界大戦後のポピュリズムが、ムッソリーニ率いるファシスト党に力を与え、再び世界戦争につながったという歴史があるからだ、とイタリアの出版社の編集者から聞いた。
年明けにはローマ教皇がヴァチカンから「世界コミュニケーションの日」のメッセージとして、ネットに氾濫するSNSのフェイクニュースに対する警戒を説く予定だと発表したぐらいだ。相当な危機感が感じられるではないか。
ネットと上手に付き合える子どもに育てる
世界の版権ウォッチをしていると、アメリカでは生まれた時からIoTが当たり前という“デジタルボーン”の子どもたちが、どうネットと接していくべきなのかを色々な角度から考えたノンフィクションの本をよく見かけるようになってきた。例えば、
“CYBER CIVICS: A Parent's Guide to Helping Kids Build a Healthy Relationship with Technology”/Diana Graber
この本は、親や教育者向けに中学生ぐらいの年齢から知っておきたいソーシャルメディアの適切な使い方や、フェイクニュースの判断の仕方などを指導する非営利団体「サイバーワイズ」の知見を総まとめした1冊だ。
副題の「テクノロジーとの健全な関係を築く子どもたちを助けるために親ができること」からもわかる通り、ともするとネットの知識では既に子どもたちにかなわないと慌てる親の世代に向けて、具体的にどんな危険があるのか、どうやったらその危険から子どもを守ればいいのかを教えてくれる内容になるという。
版元AMACOMはマネージメント、つまりは組織づくりの分野で歴史の長い非営利組織AMAの出版部門ということもあり、刊行の際に派手なプロモーションをかけたり、大々的なキャンペーンを展開するようなことはしないだろうが、堅実な内容の本として、学校の教材に取り入れられていく1冊になりそうだ。アメリカの本らしく、SNSの危険な点ばかりでなく、インターネットで手に入る様々なツールを使って、よりハッピーな、そして未来のサクセスにも繋がるようなポジティブな使い方も盛り込まれる。(翻訳権の扱いはJoelle Delbourgoエージェンシー)