その3 消費税は相互チェックが働くので脱税しにくい
消費税とはじつは付加価値税です。そのことをまず説明しましょう。
GDPの説明でもよく使われるパン屋の場合を考えてみます。農家が土地と太陽から小麦を作り、それを100万円で製粉会社に売りました。消費税率が5%なら、この場合、製粉会社が農家に払う消費税は5万円です。
次に製粉会社はこの小麦から小麦粉を作りそれを150万円でパン屋に売りました。この場合、パン屋が払う消費税は150万円×5%で7万5千円ですが、製粉会社は小麦を仕入れる時にすでに5万円の消費税を農家に払っているので、2万5千円しか消費税を国に納めなくていいのです。
これはちょうど製粉会社が生み出した付加価値に消費税率を掛けたものと同じになります。パン屋は150万円で仕入れた小麦粉から200万円分のパンを作りそれを売れば消費者は合計で200万円×5%で10万円の消費税を払うことになります。しかしパン屋はすでに7万5千円の消費税を製粉会社に払っているので、結局2万5千円しか消費税を納めなくていいことになります。
小麦農家が納める消費税は5万円、製粉会社が納める消費税は2万5千円、そして、パン屋が納める消費税は2万5千円。合計で10万円。これはパンが産み出したGDPに消費税率を掛けたものに等しくなります。
しかしここにどういう利点があるのでしょうか?もう一度よく考えてみましょう。製粉会社は納める消費税を減らすためには小麦農家からいくらで原材料を仕入れたのか記録しないといけません。同様に、パン屋は製粉会社から小麦粉をいくらで仕入れたか記録しないといけません。
税金をごまかすのは基本的にはふたつの方法しかなくて、それは売上を減らすか、経費を増やすかです。この場合、小麦農家が売上をちょっと抜いて申告すると、製粉会社の仕入れが減ることになり製粉会社が余分に消費税を払うことになります。それでは製粉会社が怒ってしまうでしょう。小麦農家が単独で売上をごまかせば、製粉会社の帳簿と矛盾が生じます。
あらゆる事業がさまざまな取引先を必要としており、世の中の経済活動が相互につながっているので、消費税の場合、誰かが税金をごまかしても税務署が業者間の帳簿を調べれば簡単にわかってしまうのです。このように自然と強力な納税の相互監視が働くのが消費税のいいところです。
日本では売上が一定額より少なければ消費税を顧客から取っても、その消費税を納めなくてもいいという益税など、本来の付加価値税的なしくみがしっかりと機能していません。
欧州諸国では、インボイス制度を導入して、仕入れ値を正確に捕捉できるようになっています。インボイスとは消費税額が記載された請求書のことです。インボイスがなければ仕入者は仕入れで払った消費税の控除ができないというしくみです。売上側と仕入れ側の相互チェックが働き、過大仕入れや過小売上の計上による脱税行為が困難になり、税がガラス張りになります。
日本もインボイス制度を導入して、付加価値に対してフェアに課税できる、脱税できない消費税を導入するべきです。逆にいえば、脱税できない制度だからこそ、日本で数が多く政治力が強い中小零細企業の反対で、なかなかインボイス制度が導入できていないわけです。