早く社長になりたかった……
30代の焦りとの向き合い方
大塚:桑野さんはこれまで何度も転身されていますが、最初におっしゃっていた「チャンスにすぐ対応すればよかった」という先人たちの後悔が響いたというのは、裏を返せば、ご自身のキャリアの中でも、チャンスにすぐ対応して移籍されてきたということですよね。
桑野:2000年に、リッスンジャパンという音楽ダウンロードの会社からはじめて「社長になりませんか」と言われたときは、やはりすごくチャンスだなと思いました。それまでは部長クラスの役職だったので、早く社長になりたいと思っていたんです。
大塚:それはなぜですか? 今の若者は管理職に就くのを嫌がったり、安定志向の人も多いですが、真逆の発想ですよね。
桑野:当時、僕は36、7歳だったんですけど、「早く社長にならないともうダメになっちゃう」と思っていたんですね。そのころは、もう40歳のおじさんは何も新しい仕事をしていないイメージがあって。
大塚:なるほど。インターネットの世界はスピードが速いですから、他の業界と比べても特に「急がなければ」という意識を持ちやすいですよね。やっぱり働き盛りは30代だという意識もあったんでしょうか。
桑野:ええ、そう思っていたんです。おっさんになっちゃうなら、いまのうちに働かなきゃと思っていて、「早く社長になんなきゃ」と、すごく焦っていました。リアルネットワークスのときは、そのままいるとストックオプションの権利があったので、2億円分ぐらいはもらえたはずなんですが、そんな2億円とか関係ねえとか思って、それよりも社長になるほうがずっと大事だと思ったんですよね。
大塚:2億円を蹴って(笑)。普通はそこで足踏みして、なかなか決められずにあとで後悔する人が多いと思いますが、バシっと決断したんですね。それで、目の前のチャンスに飛びついたと。
桑野:はい。社長のお話をいただいたときは、飛びつきました。でも、社長になってみたら、その会社のビジネスモデルが全然ダメだった。月の収入が200万円しかないのに、社員が50人もいる状況だったんです。そんな会社が続くワケがない。しかたがないから、社員をどんどんクビにしていきました。それはすごく悲しかったですよ。でも、いい勉強にはなりました。その経験があったから、いまは冷静な判断をしながら、社長業をできているのかもしれません。