このような試算を、(賛成派も反対派も)もっと互いに出し合って何がわが国にとって一番得であるかを考えるのが、そもそも貿易交渉の基本ではないのか。何もTPPへの参加を絶対視する必要はない。お隣の韓国のように、それによるメリットが大きいと判断されるのであれば、日米FTAでもいいと考える。「コメを守れ、食料自給率を守れ」とか、「日米関係が大事だ、10年後見据え決断必要」とか国語(抽象論、観念論)で議論をしているから、いつまで経っても平行線を辿るのではないか。議論は算数(具体的な数やデータ)で行うべきである。
貿易は所詮は商売なのだから、どうやったらわが国がもっと儲かるのか(≒実質GDPが上がるのか)という基本を徹底して詰めることこそが国益だと考える。ただし、TPPは乗りかかった船なのだから、将来に向けて、実質GDPが増える方向に働くのであれば、そして、そのことが数字でしっかりと確認できれば、TPP交渉への参加を決断してもいいのではないか。
輸出補助金が食料安保の基本
前回のコラムで、食料の安全保障を確保するということは、わが国の耕地面積を維持することとほとんど同義だと述べた。コメを例にとり、再度詳しく述べてみよう。
わが国の水稲の作付面積は157万ヘクタール(ピーク時は317万ヘクタール)で、収穫量は840万トンである。このほぼ全量を日本人が主食として摂取している。ちなみに、仮にコメが自由化されたとしても、わが国のコメは短粒種(ジャポニカ)で、(輸入が懸念される)アメリカやオーストラリア、タイのコメは、大半が長粒種(インディカ)なので、価格差はともかく、主食が海外産に置き換わると考えることはおよそ現実的ではない(世界のコメの中で、ジャポニカは約15%を占めるに過ぎない)。
ところで、コメを輸出しているコメ農家の佐藤彰一氏によると(2011年11月3日 朝日新聞朝刊)、「パリで、2.5kgのカリフォルニア産あきたこまちが11ユーロ、日本産コシヒカリは38ユーロで売られているが、うちのコメは農協などを通さない単純な流通なので17ユーロ。勝負できる」ということのようだ。
わが国の水田の1ヘクタール当たりの収穫量は約5.35トンである。仮に、休耕田が(ここではあり得ない想定ではあるが、極大値を考えて、分かりやすく、ピーク時との差をとってみた)160万ヘクタールとすれば、そこで生産可能な米は856万トンとなる。この全量を輸出することができれば、食料安保上有用と考えれらるわが国の水田の作付面積は、たちどころに2倍以上が確保されることになる。佐藤氏は現状でも品質で十分勝負できると言われているが、仮にパリにおける価格差6ユーロの半額(3ユーロ)を輸出補助金として補てんすれば、必要な予算額は約100億ユーロ(1ユーロ100円として約1兆円)となる。これは農林水産省の戸別所得補償制度などの実施に要する予算額と大差がない。
この試算はわが国の現在の水稲の生産量以上を輸出するというまったく荒唐無稽なものであるが、それでもこの程度の予算措置で事足りるのである。仮にわが国が食料安全保障を最重視するのであれば、減反政策のような愚は即刻とりやめて、このように輸出補助金を中核とする新しい農業政策に切り替えるべきであろう。