「何をすべきか」誰も分かっていない
赤字運営を脱却するための移転だったにもかかわらず、球団は初年度、東京時代と変わらない大きな赤字を出していた。長年にわたって染み付いた経営感覚のなさが、新たな成功への道を阻んでいた。そんな中で私は、再び任務を託されることになる。「地域密着」と「赤字脱却」。またしても、この二つの課題が私の前に現れた。
しかも今度は、さらに難易度が高かった。セレッソのときは、大阪という勝手知ったる町での仕事だった。しかし北海道は事実上未知の土地である。「プロ野球ファンはジャイアンツファン以外いない」と言われる北海道に、新たなスポーツビジネスをどう根付かせるか。今までにない戦略が必要だと思われた。野球がサッカーに比べて大規模なビジネスであることも、課題のレベルを高いものにしていた。歴史も古く、ファンの幅も広く、動く金額も社会的な影響力も大きい。
2005年1月、常務執行役員事業本部長に着任。生半可な気持ちでは到底うまくいかない。そう考えていた私は開始早々頭を抱えた。肝心のファイターズが、非常に「生半可」な組織だったからである。誰が何をすべきなのか、ということが全員まったく分かっていないのだ。
年度初めのチーム激励会の折も、役割分担の甘さが露呈した。会の進行、来賓のもてなし、会場設営とさまざまな業務があるはずなのに、誰も自分の仕事を意識しない。客をもてなすのは私や一部の社員だけ。ほとんどの者がグラス片手にくつろいでいる。
ファン感謝デーをはじめとする様々なイベントでも、社員自らアイデアを出し、働くことはなかった。テレビ局やイベント会社などにプランニングから運営までを丸投げしていたからだ。これでは赤字になるのも当たり前である。
もう一つ気になったのが、ドームで野球を観戦している社員の多さだった。
これまた、「野球なんか、見てる暇ないやろ!」と言いたくなる。「社員なのだから、ファイターズが好きで当たり前。だから野球も観て当然」と彼らは思っているらしかった。しかしそれは私に言わせれば、間違った愛し方だ。
本当にファイターズを愛しているのなら、ファイターズを「ファンに愛される球団」にすることに力を注ぐべきだ。あまりに当然のことだが、野球を楽しく見るべきなのは社員ではない。北海道のファンの皆さんだ。
「仕事で行くのでないなら、球場に行かないこと」
「仕事で行くときは、ファンサービスに徹すること」
「仕事以外で行きたいのなら、客として金を払え」
と、社員に告げた。チケット担当はチケット売り場にいること。ファンクラブ担当はファンの対応をすること。当たり前のことだが、それをまず指示した。持ち場を離れてロッカールームに入り浸り、選手と談笑している社員には、「こんなとこで何やっとんねん!」と怒鳴りつけた。
北海道での日々は、カミナリとともに幕を開けることになってしまったのである。