「プロに入ってきたんだから、そんなことくらいはできるだろう」
そういう視点だと、できない選手が「能力がない」、「努力をしていない」と見えてしまう。野球界では「名選手、名監督にあらず」と言われていた時代があったが、その原因はまさにこういうことだったのだと思う。長嶋さんが監督1年目に球団史上初の最下位になった時、「四番に長嶋がいない」と漏らしたという。これこそ「何でもできた人」ゆえの悩みだったのではないか。
そんなスター監督とは正反対に、選手時代には高い実績を上げられなかったものの、若くして指導者の道に入り、コツコツと経験を積み重ねて監督に就任する人もいる。コーチや二軍監督を経験していれば、先に書いた“できない人の気持ち”は手に取るように理解できるから、若い選手を厳しさの中から育てていく手腕に長けている。人当たりがよく、辛抱強さも備えていることで、チームの風通しもよくなることが多い。ところが、このタイプの監督は主力選手、すなわち“できる人の思い”をなかなか理解できない。
人によっては、スター選手に嫉妬心を抱いて無用な衝突を起こしたりする。そして、ベテランから若手に切り替えるタイミングを間違えることもある。