言語習得には「科学的な結論」がほぼ出ている

さて、ずけずけと失礼なことを書き立ててきましたが、すべてはスタート地点が決定的に大事だからこそです。どうかご容赦ください。

「どうすれば外国語が身につきやすいのか?」については、言語学や教育心理学、脳科学など、さまざまな研究分野から次々と知見が集まっています。

最近では、脳科学の技術的な進歩もあり、fMRI(機能的核磁気共鳴断層画像)などの装置を用いて、脳の状態をダイレクトに観察しながら、さまざまな語学学習法の効果をエビデンスに基づいて検証する試みもはじまっています。
このようにアプローチの違いはあるにせよ、せっかくの努力を無駄にしないための「ある程度の正解」、ボウリングで言えば「ヘッドピン」にあたる部分というのは、第二言語習得の研究者たちのあいだでも、一定の共通見解が形成されています。
何よりも重要なのは、この学問によって解明されてきたメカニズムは、親や教師の世代が受けてきた「学校英語」とは、かなり違っているということです。文法知識をテコに和訳をしながら意味をとらえる文法訳読法は、19世紀の教授法なのです。

だからこそ、子どもが英語を正しく学ぶ(Learn)ためには、まず親たちがかつての学びを捨てる(Unlearn)ことが欠かせないのです。

それが「英語を使える本当に賢い子」を育てるうえでの第一歩です。

理論は理論。「年齢別のメソッド」も不可欠

では、「言語習得の世界標準」とは何なのでしょうか?
もちろん100%が解明されているわけではありませんし、最先端の研究知見のほとんどは、まだ「実験室レベル」の域を出ていません
フォン・ノイマンがコンピュータの原理を考案してから、スマートフォンが広く普及するまでに50年以上の歳月がかかったのと同様、SLAの知見を具体的な指導法へと落とし込んでいくには、語学指導のプロによる「カイゼン」のプロセスが欠かせないのです。

とはいえこれは、教師たちが勝手な改変を加えるということではありません。
SLAの研究者たちも、この原理があくまで各教育者が指導をつくるための「指針」でしかないという大前提を共有していますし(Celce-Murcia, Brinton & Snow, 2014; Richards & Rodgers, 2001)、実際の指導の際に教師・学習者が意識するべき原理を解明するISLA(Instructed Second Language Acquisition)という隣接分野も存在します(Loewen & Sato, 2017; 村野井, 2006)。

ですからこの連載では、応用言語学の学術理論をいちいち掘り下げていくことはしません。
SLAの研究論文などは参照していますが、教室で生身の生徒を多数相手にするなかで得られた、貴重な経験知も積極的に盛り込んでいます。

ここで何より重要なのは、「最適な語学学習法は、年齢によって変化する」という点です。
とくに子どもについては、認知能力の発達や興味の変化に応じて、指導の仕方や教材を細かく調整していかなければなりません。その点については、J PREP講師陣によるバックアップの下で、ご自宅でやっていただける「年齢別の具体的メソッド」を考案しました。こちらはまた後日の連載でおいおいご紹介したいと思います。

一方、まずは、それらの根底にある「語学習得の基本的な考え方」を見ていきます。これをおさえる際に必要なのが、次の3つの発想転換です。

・[発想転換1]「文字」ではなく「音」から学ぶ
・[発想転換2]「断片」ではなく「かたまり」で学ぶ
・[発想転換3]「英語を」ではなく「英語で」学ぶ

次回はまず一つめです。現時点での研究成果と多数の生徒を指導してきた経験とをベースにしながら、「英語を“自分で”学べる子」を育てる方法をお伝えします。

(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)