英語学習の「世界標準」としてのフォニックス

赤ちゃんが母語を身につけていくときには、“文字を使わずに”音とモノの対応関係をつくっていきます。赤ちゃんの「うーうー」といううなり声が、しだいに「言葉」へと成長していく過程は、親にとっては本当に感動的ですよね。

ただし、これは母語を身につけるときの話です。外国語の場合はどうでしょうか?
結論から言えば、たとえ子どもであっても、ひらがなやカタカナが読めるくらいの段階にあるなら、文字と音との対応関係を意識するほうが効率的です。

「『文字と音との対応関係? ……じゃあ、やっぱり『ABCの歌』かな?」

そう考えた方は、2つの意味でとてもいい線をいっています。一つは音楽を取り入れる発想です。詳細はPART2でご説明しますが、音楽と語学学習にはさまざまな親和性があります。
もう一つすばらしいのは、アルファベットの音に着目している点です。英語は母音だけでも数え方によっては30個近くの音がありますから(日本語はアイウエオの5個だけ)、いきなり全部を聞き分けたり発音したりするのは無理があります。最初にアルファベットの26文字に絞るのは、学習戦略としても正しいでしょう。

「本当の音」を脳に覚えさせるフォニックス学習法

ただし、「ABCの歌」だけでは不十分なのも事実です。
この覚え方だけでは、文字と音の基本的な対応関係を整理できないからです。
どういうことかご説明しましょう。
「ABCの歌」のようなアルファベット読みでは、一つの文字の読みは、複数の音から構成されています。たとえば、“B”という文字は、子音と母音がセットになった読み方をしますし、“F”は冒頭に母音をつけて発音します。

ここでひらがな五十音表を思い出してください。ひらがなは文字と音が一対一対応になっていますよね?“あ”の文字はいつも同じように「ア」と発音されます。
一方、英語のアルファベットはそうはなっていません。“C”の文字は[k]と読むときも[s]と読むときもありますし、アルファベット読みでは[si:]となります。

そこで、各アルファベット文字に一つの音を対応させたのが、フォニックス(Phonics)の読み方です。これにより、“B”の文字には[b]の音、“F”の文字には[f]の音というように、代表的な音と文字をセットで覚えることができます

「代表的な音」と言ったのは、2つ以上の音を持つ文字があるからです。たとえば、“A”の文字にはさまざまな発音がありますが、フォニックスでは「apple」の冒頭と同じ音になります。

英語という言語は、さまざまな歴史的背景もあって、単語のスペルと発音の対応関係が非常にいい加減です。
ネイティブでもとても苦労するので、英語圏に育つ子どもたちですら、必ずフォニックス読みの練習をします

ですから、みなさんの子どもにも、ぜひフォニックスを練習させてあげてください。
フォニックスはすべての英語学習の基礎中の基礎であり、中高生にも大人にも効果があります。
小学生以下の子どもについて言えば、その後の学習効率を圧倒的に高めてくれる最強の方法と言っても過言ではありません。

(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)

【著者紹介】斉藤 淳(さいとう・じゅん)
J PREP斉藤塾代表/元イェール大学助教授/元衆議院議員。
1969年、山形県生まれ。イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。研究者としての専門分野は比較政治経済学。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。
2012年に帰国し、中高生向け英語塾を起業。「第二言語習得理論(SLA)」の知見を最大限に活かした効率的カリキュラムが口コミで広がり、わずか数年で生徒数はのべ3,000人を突破。海外名門大合格者も多数出ているほか、幼稚園や学童保育も運営し、入塾希望者が後を絶たない。
主な著書に、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)のほか、10万部超のベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく 問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。