人気の「なす汁せいろ」「ごぼう天そば」など
酒の後に食べる種物蕎麦がなんといってもいい

 だが、この数年、辺りに飲食店やカフェ、専門店が増えた。夜の根津は面白いと言われるようになり、街の勢いが増した。根津に人が集まり、若い世代も目立つようになった。

 そんな根津の変遷を肌で感じながら商売をしてきた山梨さんは、蕎麦屋の良さを若い世代に知ってもらいたいという。だから、蕎麦にはとことん気を遣う。”初めて出会う手打ち蕎麦の味が、若い人たちの蕎麦屋へのマインドに影響を与える”と自らの体験から思っているのだ。

根津「よし房・凛」――蕎麦料理独特の手仕事が光る。下町風情の味わいを肴にゆっくりと飲みたい二八の正統な江戸蕎麦を思わせる「せいろ」は、均等に星が散らばり、甘皮の香りが全体に広がる。腰もしゃきっとして噛み応えに味がある。製粉技術の高さが窺える。

 その蕎麦はせいろが二八で、田舎が外一だ。

 せいろの切り口はほぼ正四角形で、まさにすべての麺体が均等で仕事師らしい蕎麦だ。箸に取ればふわりと香り立ちがして、腰もしなやかで歯応えが心地よい。

「よし房」の場合、酒のあとにはなんといっても種蕎麦がいい。

「茄子じるせいろ」は夏季だけに出していたのだが、お客の要望で年間メニューになったものだ。鴨の皮をゆっくり炒めて脂を取り、その脂で茄子を炒める。茄子は見た目に半生かと思うくらいだが、茄子に鴨脂の甘みがしっかり滲みて旨みで膨らんでいる。

根津「よし房・凛」――蕎麦料理独特の手仕事が光る。下町風情の味わいを肴にゆっくりと飲みたい(写真左)お昼時になると客のオーダーが沢山入る人気の「茄子じるせいろ」。鴨油ベースの甘みが口中に広がる。(写真右)「ごぼう天そば」。牛蒡は身が厚いがさくっと柔らかく歯が入る。酒のあてに数本頂いてからの仕上げ蕎麦にするのがおすすめ。

 冷たいぶっかけ蕎麦はいくつかあるが、中でも「ごぼう天そば」が定番人気商品だ。牛蒡は身が厚いがさくりと噛めて甘みがある。常連はこれを半分は酒の肴にするのが定法らしく、これはさっそく真似てみたいものだ。せいろの美味さ、種物蕎麦の人気、蕎麦料理の新鮮さ。下町の粋な仕事を知らない、あの人を招いてやろう。

「よし房」までは時間があれば、日暮里辺りからぶらぶらと散歩をしてみたい。蕎麦屋酒を味わい、招いた人の気持ちと深まれば、根津神社の霊験がその身に宿ることになるかもしれない。

「よし房・凛」
●営業案内
根津「よし房・凛」――蕎麦料理独特の手仕事が光る。下町風情の味わいを肴にゆっくりと飲みたい
・住所 東京都文京区根津2-36-1
・電話 03-3823-8454(FAX共通)
・営業時間 11:00~15:00(LO14:45) 17:30~21:00(LO20:30) 日曜のみ11:00~15:00 定休・火曜
●予算:3000~4000円
●HP:なし
●おすすめ:せいろ、田舎(共に750円)のほか、人気は茄子じるせいろ(1300円)、ごぼう天そば(1000円)、種ものそばが豊富でぶっかけの越前おろしや辛み大根あげ餅そば(共に950円)など、酒肴の締めに頂きたい。
●酒・料理:酒は豊杯・純米しぼりたて・生酒がおすすめ、人気の飛露喜や醸し人九平次は共に1合1000円設定。女性に人気の獺祭スパーリングもある。肴は蕎麦の刺身(350円)、蕎麦味噌の春巻き(400円)がおすすめ。これに鴨焼き(950円)、出し巻き(650円)で立派なコースになる。会食などでは女将に料理の組み合わせを選んでもらうのもいい。
●訪問:21時まで営業なので、会食や接待にも重宝する。休日には谷根千のギャラリーめぐりをしてから蕎麦屋に入るのもいい。
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