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住友化学は今冬、中東で操業している世界最大級の石油精製・石油化学コンビナートについて、第2期計画の投資を決定する。これに対し、化学業界では「どんでん返しで先送り、凍結があるかも」といううわさが駆け巡っている。
このコンビナートは世界最大の産油国であるサウジアラビアの国営石油会社サウジ・アラムコと合弁会社を設立し、1兆円を投じて2009年に築いたものだ。その拡張計画の決断が難しい理由は住友化学が抱える「三重苦」にある。
一つ目は需要環境の悪化だ。中国の旺盛な需要が足元で減退、欧州は経済危機を迎えている。2期では生産する石油化学製品の種類を増やし、中国に加えて欧州への販売が視野にある。したがって中国と欧州の需要が揃わなければ、設備過剰に陥りかねない。
二つ目は脆弱性の残る財務体質、三つ目は現地の合弁会社の業績が振るわないことだ。現在の中期経営計画は財務改善が最重要テーマであり、投資は厳選している。
仮に2期の投資が5000億円規模になった場合、1期同様に資金の半分強をプロジェクトファイナンスで賄うとしても、数百億~1000億円弱は自らが出さなければならない。投資回収が堅ければ投資家からの賛同も得られやすいが、1期は計画の遅れなどが影響して回収が遅れている。
結局、足元はマイナス材料ばかり。しかし、投資判断はもう先送りできない。事業化調査は終了し、建設費の見積もりは出揃った。発注者に優位なタイミングなので1期に比べ割安な建設費用に抑えられるが、発注の回答期限は目の前に迫っている。
加えて、すでに決定を1年先送りしているため、これ以上延ばせば競争力のある原料を供給してくれるサウジ・アラムコに愛想を尽かされる怖さがある。サウジ・アラムコは米化学大手ダウ・ケミカルなどとも巨大プロジェクトを進めている。住友化学に見切りをつけて合弁会社の経営に影響が及べば、これまでの投資までが水泡に帰してしまう。
石化製品の原料となるエチレンの原価を見ると中東製は日本製の10分の1。価格競争力の差は歴然で、いずれ世界市場の多くを中東製や中国製が握ることは明白だ。
氷山の一角だが、東日本大震災後、レジ袋などで使うポリ袋は国内生産が停滞して輸入品で代替されたが、国内生産体制が回復した今なお輸入量は増えたまま。国内市場の一部は輸入品に取って代わられた。この輸入ポリ袋の中には住友化学の手が入ったものもある。中国製ポリ袋などには安価な中東製の原料も使われているからだ。
順調に進めば年末の取締役会で2期投資の有無を決し、遅くとも今冬中に正式決定となる。足元は悪い。しかし、中東での大勝負に勝たなければ、将来の石油化学業界で成長する芽は摘まれる。社運を賭けた決断がまもなく下される。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)