A課長は続けた。

「でもな、Bは残業代出さないと労働基準監督署に訴えるって言っているんだ。そこが心配だよ。どうしよう……」
「まあまあ、落ち着けよ」

 D社労士のアドバイスは以下の通りである。

 (1)A課長の話を聞いた限りでは、飲み会は仕事の一環とはみなされず、Bへの残業代は発生しない。しかし、Bに対してはその理由をきちんと話すこと
 (2)乙支店の労働時間管理方法を改善する。出勤簿ではなく、タイムカード、もしくはパソコン等で出退勤時間を管理する、あるいはタイムカードとパソコンで出退勤時間の矛盾がないかダブルでチェックすること
 (3)残業をする場合は、上司の許可を取ってから行うのを前提とする。「残業許可書」等を作成し、提出させることにより記録すること
 (4)A課長の部下に対するコミュニケーションの取り方について考える。飲みニケーション以外の方法も考えてみること

 その後、A課長は会社の見解だけではBに納得されないと思い、過去の判例を調べ、Bに提示、残業代が支給されない理由をきちんと説明した。Bは憮然としていたが、最後にはしぶしぶ納得した。また全体会議でこの問題について取り上げ、社員が誤った解釈をしないように徹底した。

 社員の労働時間管理については、C支店長と話し合いの上、営業という仕事の性格上直行直帰があることも考えて、パソコンまたはスマホで出退勤の管理ができるシステムを導入した。

 残業時間の把握に関しては、これまでも上司の許可が必要ではあったが、今回の件も踏まえて徹底するため、「時間外労働管理表」を作成、運用することにした。

 A課長は今回の件で、部下とのコミュニケーションを図るのに「飲みニケーション」はもはや通用しないことを悟った。しかしコンクールの日は迫っている。今回は自分やベテラン社員の頑張りで乗り切るが、今後、飲みニケーションには頼らずに、部下のやる気に火をつけ、課全体の業績を上げるにはどうしたらいいのか?

 そこで業務状況の把握のため、月1回行っている部下との面談報告を受け、指示を出すだけの一方的な接し方から、部下の意見や提案も積極的に受け入れ、ともに考えていく場にした。するとベテランはもとより、若手も「自分はこうしたい」と積極的に意見を出し、その結果、若手のやる気を引き出せることに成功したのである。