「ゾーン」の脳波!?

 眠気や雑念に関わるシータ波が優位な低覚醒状態では、高いパフォーマンスは期待できません。逆に、緊張や過活動に関わるハイベータ波が優位な高覚醒状態でも高いパフォーマンスは得られません。

 中覚醒領域の脳波が優位な時に、最もパフォーマンスが高まると考えられています。

 中覚醒領域の脳波の中でも、最もリラックスと集中のバランスがとれた「SMR波(Sensory Motor Rhythm:感覚運動リズム)」と呼ばれるベータ波の一種があります。

 SMR波は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)名誉教授のバリー・スターマン博士によって1960年代に発見され、その後の追跡研究により、近年ではゾーンのカギを握る脳波として注目を浴びています。

自分の「脳のタイプ」を知るだけでもメンタルを強くできる

 それはあたかも、野生動物が獲物をじっと狙っているような状況、つまり落ち着いてはいるがいつでも行動を起こせるアイドリング状態の時に、脳の頭頂を中心に優位に出現します。

 アスリートであれば、外部状況に惑わされず、身体はリラックスしつつ競技に集中できている状態です。

 中覚醒領域の脳波には、SMR波(12~15Hz)の他に、ハイアルファ波(10~12Hz)、ローベータ波(15~18Hz)などがあり、リラックスと集中のバランスがとれたSMR波を頂点とした場合、よりリラックスし、覚醒が下がればハイアルファ波、より集中し、覚醒が高まればローベータ波になります。

 弓道やアーチェリーなどの精神的スポーツではよりリラックスしたハイアルファ波状態が適しており、サッカーや格闘技などの肉体的な接触があるスポーツではより集中が高まったローベータ波が適していると考えられています。

 当然、同じ競技でも、ポジションや個人の特性によって最適な脳波状態は変わってきます。

脳タイプ別メンタル強化法

 人の脳波には低覚醒なタイプもあれば高覚醒なタイプもあります。さらにその中間の中覚醒タイプもあります。そして、ハイパフォーマンスを発揮するには、リラックスと集中のバランスがとれた中覚醒状態を目指す必要があります。

 つまり、中覚醒状態へのアプローチ方法は、脳の覚醒タイプによって異なってくるということです。

 日常的に、脳の覚醒が低い、落ち着いているタイプには、アクティベーション(活性化)が必要ですし、脳の覚醒が高い、興奮しているタイプには、リラクセーション(沈静化)が必要になってきます。

 さらに厳密には、試合時などの緊張場面での脳波の変化も見越して戦略を練る必要があります。このアプローチにより、ゾーン状態に近づくことができるようになるのです。

 そこで必要になってくるのが、脳の覚醒タイプの分析です。

 この分析を事前に行わず、一律のトレーニング設定で行った場合、トレーニング効果がきちんと出る人と、出ない人に分かれてきます。

 この分析方法は、ストレスプロファイルと呼ばれ、海外のスポーツ科学分野を中心に広く取り組まれています。

 ストレスプロファイルでは、心拍、呼吸、皮膚温、発汗、筋緊張、自律神経、脳波を測定するセンサーを身体に取りつけ、以下の項目の分析を行います。

 ・脳の覚醒タイプ
  低覚醒タイプ(ぼんやり脳)か?高覚醒タイプ(ピリピリ脳)か?

 ・自律神経の状態
  成人平均値と比較して正常か?異常か?

 ・ストレス時の心身の状態
  ストレス時の脳波と自律神経の状態の明確化

 ・ストレス回復力
  どれくらいの速さで脳波と自律神経の値が正常値に戻るか

 生理学的データ、心理学的データ、インタビューを総合的に判断して、その人の脳タイプを分析していきます。

 海外では、アスリートやエグゼクティブを中心に、ストレスプロファイルが実施され、科学的に自分の強みと弱みを把握することで、「ここ一番」でのハイパフォーマンスの発揮に役立てられています。

 通常、病院などの脳波や自律神経検査の場合、疾患の判別が目的ですので、基本的には安静状態での測定になります。しかし、メンタルの分析として行った場合、安静状態の分析だけでは足りず、ストレス状態での分析も併せて行う必要があります。

 なぜなら、メンタルは、安静状態とストレス状態の2つで1つだからです。そこで、ストレスプロファイルでは、ストレス状態になった時にどの脳波がどれだけ増える(減る)のか、そして、どのストレスに対して弱く、ストレスからの回復スピードは正常かどうかということを分析していきます。

 脳や自律神経のトレーニングが普及するにつれて、ストレスプロファイルも、今後多くの人々に取り組まれるようになると私は考えています。