同じ「処方箋」でも名指しされないと見向きもしない読者

 そうした観点から、かつて「自己啓発本」がどのような仕組みになっているかという点について調べたことがあります。

 わかってきたことは、不特定多数の方に当てはまりますといっても読者は納得しないということでした。

「いま、まさにこの本を読んでいるあなたのために書かれた本です」

 自己啓発本やビジネス書のコツは、こうした「名指し」をすることが最も重要なポイントとなっているのです。

 その仕掛けとして「まえがき」にこんなことを書く人が見受けられます。

「いま、書店には何万冊という本が並んでいるのに、あなたがこの本を手に取ってくださったのは『縁』以外の何ものでもありません。あなたが私の本を開いてくださっていることこそが奇跡なのです」

 こうなった段階で、もはや不特定多数ではなくなっています。個別の「私」に向けたメッセージであると読者が認識するのです。

 実は、こうした手法はよく使われるものです。

 たとえば、就職活動をしている大学生に向けて大学の就職支援センターがメールを出すときに、「3年生のみなさんへ」と書いても誰も読んでくれません。そこで、宛名には個別の名前が入るようにプログラムを設定します。ダイレクトメールと同じ発想ですが、多くの人は個別の名前が入っているとついつい「私のために特別に送ってくれた」という意識も高まり、つい読んでしまうものなのです。

 単行本ではそこまでできません。ただ、これから電子書籍が普及してくると、それも可能になるのではないでしょうか。

 本文中の「あなた」のところを固有名詞に変換すれば、一瞬にして個別の読者のためだけの本に生まれ変わってしまいます。現代の技術を駆使すれば、こうしたことも簡単にできるようになるでしょう。