世界トップレベルの
ロボット技術をどう活かす?

 AIに関してはアメリカに大きく先を越された感があります。しかし、AIは誰もが無料で利用できるオープン化が世界の趨勢となっているため、話題のディープラーニングでさえ、私たちはわりと簡単に自分のロボットに取り入れることができます。ですから、AIでの遅れをそこまで悲観することはありません。

 一方、日本の技術力は素晴らしく、ロボットのハードウェアやロボットに使われる各種部品(要素部品)の性能は、世界のトップを走っています。ハードウェアというのは、AIのように簡単にコピーできる種類のものではありません。

 部品の組み合わせ方や使い方いかんによって、ロボットの性能は大きく左右されるからです。これはAIとは大きく違う部分です。この部分に強いのは、日本の強みです。
 ロボットは、ハードウェアとソフトウェアが融合した機械ですから、AIだけ先行しても、あるいはハードウェアだけ先行しても、理想的なものはできません。

 AIとロボット、それぞれが大きく進化した今、大切なのはそれらをどのよう使っていくかというアイディアであり、技術なのです。そのようなアイディアは、技術者側からだけではなく、生活者であるビジネスパーソンの間から生まれてくるものが多いのではないでしょうか。

 さらに、今、工業分野だけでなく、サービス、介護、エンターテインメントなど、いろいろな場面におけるロボットの参入には目覚ましいものがあります。
そのためにも、専門家ではなくても、基本的なロボットの歴史と仕組み、AIとの関わりなどを知識として知っておくことは、アドバンテージとなるはずです。

 本書では、ロボットの歴史を第1章から第4章で振り返った後、ロボットとAIとの関わりを第5章で詳しく説明します。第6章ではロボティクスの現状および未来を私なりに分析、予測しています。

 この本によって、ロボティクスに興味を持つ人が少しでも増え、そして今後、みなさんの仕事や生活を助けるためにロボットを利用できるようになれば幸いです。そして次回から、この本の中身を少しご紹介しようと思います。

中嶋秀朗(なかじま しゅうろう)
 日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授。1973年生まれ。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻修了。2007年より千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科准教授(2013-14年、カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員)を経て現職。専門は知能機械学・機械システム(ロボティクス、メカトロニクス)、知能ロボティクス(知能ロボット、応用情報技術論)。2016年、スイスで第1回が行われた義手、義足などを使ったオリンピックである「サイバスロン2016」に「パワード車いす部門(Powered wheelchair)」で出場、世界4位。電気学会より第73回電気学術振興賞進歩賞(2017年)、在日ドイツ商工会議所よりGerman Innovation Award - Gottfried Wagener Prize(2017年)共著に『はじめてのメカトロニクス実践設計』(講談社)がある。