犯人の次の一手は
「木を隠すなら森の中」か?

――少額ずつ移動させている目的は何なのでしょうか。

 既存のアドレスに送金しているようなので、三つのことが考えられます。

 まず、色々なアドレスにモザイク付きのNEMを送り付けてしまえば、多くの無関係の人もモザイク付きのNEMを持つ状態になります。その数が増えれば、モザイクがついていようと、NEMの取引を再開せざるを得ない取引所が出てくるはずです。犯人は、そうなった段階でNEMの換金を行おうとしている可能性があります。

 もっと一般論で言えば、仮想通貨をロンダリングする手法として「ミクシング」があります。多くのアドレスを経由させ、他の仮想通貨と混ぜてしまうことで、どれが因果関係を持ったNEMなのか分からなくさせるわけです。ただ、今の犯人の動きを見ていると、色々なところを転々と移動させている様子は見られないので、ミキシングをしているとは言えないでしょう。そう考えると、モザイクの意味をなくそうとしているのが有力かもしれません。

 三つ目ですが、“表”の取引所では換金できないので、相対取引で処分しようとしているのかもしれません。買い取る側にしてみれば、取引相手が本当にNEMを持っているのか確かめておきたい。そのため犯人は、買い取り候補者に対して、自分が持っているNEMの一部(少額)を送って証明している可能性があります。このケースであるならば、少額を受け取ったアドレスの中に“本命”がいるかもしれません。

――コインチェックは1月28日、約26万人のNEMの保有者に向けて日本円で460億円の補償を行う方針を発表しました。補償ではなく、NEMを取り戻す手立てはありますか。

 基本的に、仮想通貨の仕組みとして、一度漏れたものは元には戻せません。銀行振込の組み戻しのような操作はブロックチェーン上では行わないのです。なぜなら、銀行口座に相当する“アドレス”は一人ひとりが自由に作ることができるもので、管理者がいないからです。管理者は不在ですが、取引が正しく行われたときには世界中のパソコンやスマホが高速で計算処理をして「承認」を行っています。それが仮想通貨の特長です。