人は理屈だけでは動きません。感情でも納得してはじめて動いてくれます。そこで大事になるのが、相手の「感情スイッチ」がどこに入っているかを知ること。感情とは、刺激に対する反応。適切な刺激を与え、相手の感情スイッチをオンにすることができれば、自然と向こうから動いてくれます。

人間は「感情スイッチ」が入りっぱなしのコンピュータだ

 感情に関する研究で名高い心理学者ポール・エクマンは、感情の仕組みをスイッチにたとえてこう説明しています。

「『どんな感情であっても感じた瞬間に広域放送する準備ができて』おり、どんなときも『スイッチが入っている』状態になっているのが、感情という信号システムの特徴だ」
  というのです。

 人間とは「感情スイッチ」が入りっぱなしのコンピュータ。感情を止めることはできないということですね。

 人は、相手を動かそうとするとき理屈で動かそうとします。

 しかし、相手の心のなかでは理屈よりも先に感情が動いているわけです。

 内容には興味を持ったものの「なんだか気にくわない人だ」と、応諾をしぶったりするのも、人間は感情を通して物事をとらえるからです。

 理屈で納得させるだけでなく、心でも納得させる。感情でも納得させることが、相手を動かすことにつながるのです。

 そこで大事になるのが、相手の感情スイッチがどこに入っているか知ることです。イライラのスイッチが入っているのか、それとも喜びのスイッチが入っているのか。同じ言葉を話しても、相手に与える印象は違ってしまいます。

 感情というのは、刺激に対する反応です。

 相手のスイッチが話を聞き入れづらい方向に入っているなら、まずそれを変えるような行動をとることが大切です。 

相手が喜びそうなことをやってみる

 では、どうやって相手の感情スイッチを入れていけばいいのでしょうか?

 結局は、相手に対して思いやりをもって接することができるかどうか、それが大きく影響してくるのではないでしょうか。

 たとえば、自分の立場や考え方を考慮したうえで話を進めてくれる相手には、人は思いやりを感じます。

 まず、自分から相手のことを好きになることが大切です。

「好き」という感情は相手の感情にも刺激を与えます。そして自らの行動にもあらわれます。

 相手を動かそうとするよりも、好きな相手が喜びそうなことをやってみるのです。それが、相手の感情スイッチをプラスの方向に切り替え、こちらの言うことに聞く耳をもたせることにつながります。

渋谷昌三(しぶや・しょうぞう) 1946年、神奈川県生まれ。学習院大学文学部卒業、東京都立大学大学院博士課程修了。 心理学専攻、文学博士。山梨医科大学教授を経て、現在、目白大学大学院心理学研究科及び社会情報学科教授。非言語コミュニケーションを基礎とした「空間行動学」という新しい研究領域を開拓し、その研究成果をもとに、現代人に潜む深層心理を平易にユーモラスに解説した書籍で多くのファンを持つ。主な著書に『外見だけで人を判断する技術』(PHP研究所)、『手にとるように心理学がわかる本』(かんき出版)、『好感度200%UPの話し方』(ぶんか社)など。