自分が“汚名”をかぶっても、やらなければならないこと
だから、ブリヂストンのCEOとして、至らない点は多々あるかと思いますが、私なりに「美田」を残すために努力をしてきたつもりです。
そもそも、私自身が先達の社長が営々と築き上げてきた「美田」を与えられた存在です。創業者である石橋正二郎はきわめて先見性に富んだ人物で、創業当時から常に世界を視野に思考と実践を積み重ねてきました。それ以来、「大河の流れ」のように、代々の社長が世界へのチャレンジを続け、「あるべき姿」に近づけようと努力を続けてきたのです。
その「美田」を決して傷つけるようなことをしてはならない。先人の苦労を思えば、それは当然のことだと思います。そして、何よりも、少しでもよりよい「美田」にして、次世代に引き継がなければならない。それこそが、私自身が「美田」を与えられたことに対する、感謝の表現だと思ったのです。
「名実ともに世界ナンバーワン企業」になるために、創業以来最大規模の組織改革に取り組んだのもそのためです。
ファイアストンの買収をはじめ、先人は次々と世界中にブリヂストンの事業基盤を広げてきました。だからこそ、世界トップシェアの座を奪還することができたわけです。ただ、次々と増設してきたがために、グローバル経営に適した組織としての「形」は十分には整っていませんでした。であれば、それが私の仕事だと考えました。
本来、お客様の立場から考えれば、タイヤ・メーカーの組織は、品種ごとに整理するのが利便性が高いのですが、私の在任中にそこまで持っていくのは困難と判断。そこで、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、アジア大洋州、中近東・アフリカの6つの地域と、特殊タイヤ事業と化工品事業の2つの分野で合わせて8つのユニットに再編することにしました。
さらに、これら8つのユニットがマーケットで事業活動を行い、「利益」を生み出す最重要の組織であることを明確にするとともに、それらをサポートするために本社とグローバル経営プラットフォーム(8つのユニットのマネジメントをサポートする組織)を設置。従来の組織図を大きく刷新したのです。
その他、本連載ですでに述べてきたように、工場の統廃合・新設など供給体制の「形」、長期的な研究開発への投資による事業戦略の「形」、中期経営計画の導入などマネジメント・システムの「形」を整えることに注力。企業理念の改訂、管理体制・ガバナンス体制の強化、CSR(企業の社会的責任)活動、環境活動なども含めて、グローバル企業にふさわしい経営体制の「形」を構築することを企図しました。