昨年の震災のこともあり、日本株の売買高は低迷、市場に活気が戻らない状況が続いている。しかし、この皆が悲観している今こそ、投資のチャンスであり、さらに過去の歴史からみても、危機の後には大きな潮流が生まれている…。カリスマファンドマネジャーの藤野英人さんに、日本株市場の今後について語ってもらった。(全5回)
大きな危機の後に、新たなトレンドと
新たなスター企業が生まれる
日本株を考えるうえで、避けて通れない問題として昨年の東日本大震災の影響があります。
私は22年間ファンドマネージャーとして活動する間に、今回の震災以外にも、戦争、テロ、金融危機など様々な危機に遭遇してきました。
2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロの際には、1日で運用資産の50億円失うという体験もしました。結局は、いずれの危機の時にも、そのあとに損失分をカバーして乗り切ってきたのですが、その時々で眠れないほど悩み、必死で運用資産を守ろうと戦ってきました。
また、少しでもヒントを得ようと、歴史を勉強し直しました。過去にも世界経済には様々な危機が襲っていますが、その時に何が起きたのか、株式市場はどう動いたのか、そうしたことを勉強することで、今後も起こるであろう危機を乗り越えていくことに役立つと思ったからです。もともと歴史は好きでしたが、ファンドマネージャーとしての仕事に携わる中で、歴史から学ぶ重要性をより強く感じるようになりました。
そうした体験や研究からの結論として言えることは、大きな危機の後には新しい潮流が生まれてくる、ということです。価値観の変化が起こり、そこから新たな経済トレレンドや株式市場の流れがおこり、新たなスター株が出てきます。
たとえば、1995年の阪神大震災は、三木谷浩史社長が楽天を創業するきっかけになりました。神戸出身の三木谷氏は、地震で壊滅する街を見て、さらに親族を亡くしたことから「人生何が起きるからわからない。限りある人生、自分が本当にやりたいことをやろう」と、起業を決意したということです。
それまでの三木谷氏は、ハーバード大学でMBAを取得、出世街道をひた走る日本興業銀行のエリート行員でした。日本興業銀行は合併して、現在はみずほフィナンシャルグループになりましたが、当時の興銀マンは銀行マンの中でもエリート中のエリートでした。阪神大震災という出来事は、銀行マンとして最高のエリートコースを捨てるほど三木谷氏の人生観に大きな影響を与えたのです。
また、さまざまな分野でディスカウンターが登場して、価格破壊の流れが加速したのもこの頃からです。この当時の日本は、『内外価格差』などという言葉も取りざたされるほど、海外に比べて物価が高いと言われる状況でした。
しかし、震災をきっかけに「高いものを買っても、大震災が来れば全て失ってしまうかもしれない。もっとシンプルに生きよう」という社会的な雰囲気が生まれました。
そして、三木谷氏のように、震災を機会に人生を見つめ直したり、企業家マインドが高まる機運が社会全体に生まれ、かねてからの日本の課題である価格破壊にチャレンジする企業家が増えたのです。
現在の日本で、価格破壊をリードしている企業家たちは皆、「日本人の生活を豊かにしたい」という社会的使命感を強く持っている人たちが多いのですが、そうしたマインドがこの時期により高まったわけです。