自分の立場に置き換える
私が昔、投資を勉強していた頃、投資の先生から取引ルールを教えてもらって、その通りに取引をしているつもりだったのですが、まったくうまくいかずに悩んでいたときがありました。
教えられたとおり、厳密にルールを守れていないからだと思った私は、当時プログラミングをやっていたこともあり、そのルールをプログラムに落とし込んで、自分の主観を入れず、ルール厳守で取引しようと考えたのです。
しかし、教えてもらったとおりのルールをロジックに落とし込んだはずなのに、なぜか投資の先生との取引タイミングが違ってしまい、これまたパフォーマンスが上がらず、どうしたものかと悩んでいました。
同時期、システム構築の仕事関係で、私が気象予報士の資格を持っていたこともあって、気象データを活用した、ある予測モデルをつくるというプロジェクトに入ることになりました。
しかしその予測は、これまでずっと現場の直感でやってきたものだったので、そもそもどのようにして予測の意思決定をしているのかを明確にする作業から始めなければならない状況でした。
ただ、現場の方々も言葉やモデルにどうしても表現しきれないと悩んでしまう状態で、ヒアリングしてもなかなかモデルは見えず、何か突破口を見つけ出さなければ先に進めない状況となりました。
そのときに「意思決定」というキーワードに触れ、たまたま書店で『ウォートンスクールの意思決定論』という本を見つけました。
その本は経営者視点での意思決定に関する内容が書かれていて、あまり気象の予測モデルとは関係がなさそうだったのですが、「意思決定」というキーワードに関連する本自体が書店にあまりなかったことや、社会人に求められる読書のことを考えると、何かしら次につながるキッカケは手に入ると思えたので、とりあえず購入してみました。
そして読んでいくと、「モデルと直感」に関する内容が書かれていました。
端的に書かれていたことをまとめると、モデルだけでの判断、専門家の直感だけでの判断よりも、モデルと直感は組み合わせることで高い精度を発揮するという統計データのもと、どのようにモデルと直感を組み合わせていけばいいかが論じられています。
この内容を読んでいるとき、私は「自分のプロジェクトに置き換えたら……」という視点でイメージを広げようとしていたのですが、ふとした瞬間に「この考え方、投資の取引に当てはめたらいいのでは……?」という思いがよぎりました。
そして、取引をするプログラムを書き換えて、ルールに従って売買をするのではなく、取引条件を満たしたら自分にメールを発信し、そのメールを受け取ったら最終的な売買判断は自分でやるというイメージが閃いたのです。
つまり、値動きからの判断はモデルに、時事的な経済情報やニュースなどからの判断はアナログ(直感)にやることで、それぞれの不完全さを補えるようにしてみました。すると、投資の先生との取引タイミングも近づき、パフォーマンスも上がるようになりました。
この本は、投資とはまったく関係ない目的から読み始めたわけですが、本に書かれている内容をキッカケに、自分が抱えている悩みを解決することができた一例になります。
このように社会人の読書には、書かれている内容に沿った解釈イメージだけを考えるのではなく、あくまでも自分の立場に置き換えるとどうなのか、を考えることが求められます。
そういう意味では、本に書かれている文章以外の言葉で、すべてをアウトプットしようとしたほうが、閃きは生まれやすくなると考えることができます。
読書に対するアウトプットをしようといわれると、国語の宿題で出ていた読書感想文のことが反射的に思い浮かぶために、その本に書かれている言葉や文章に沿って自分の感想を書き出していくという癖がついているかもしれません。