10の力を持つ人も、100の人も、給与に大きな格差はつけない。同社は高い給与や昇進による外発的動機付けのかわりに、本業や社会貢献を通じた、承認や感謝といった内発的動機づけにつながる機会を多数用意している。商品開発担当者でなくても、皆がアイデアを提案できる場が用意されているし、社会貢献でいえば、東日本大震災では辰野会長を先頭に、多くの従業員が被災地へボランティアに駆けつけた。「モノづくりや社会貢献を通じて人々に感謝されることは、給与や昇進などよりも、よほど人を動機付けます」(辰野氏)。外発的動機付けから内発的動機付けに主眼をシフトし、安心して働ける環境の整備を進めることは、ポイントの第1に挙げられる。

課外活動での成功体験で
自己信頼を上げる

 2点目は「課外活動へのミドルの解放」だ。ANAグループはANAバーチャルハリウッド(VH)という課外活動を展開している。VHでは手を挙げた社員がディレクターとなり、テーマに共感するメンバーを自ら集めて活動する。テーマ設定は自由だが、社内だけでなく、顧客や地域社会など、社外への価値提供が求められる。

 航空貨物業に携わるある社員は、「空港の滑走路を走るマラソン大会」を実現させた。メンバー集め、社内の説得、地元自治体や空港管理者といった社外の説得と、立ちはだかる壁を次々と乗り越え、ついには毎年数千人を集めるイベントに育て上げた。こうした経験をしたディレクターの社員は、会社や同僚にいかに支えられているかを実感するようになり、「やらされ仕事でなく、チームで何事かをやり遂げる充実感」を、若い人たちにもっと伝えたいと心がけるようになった。

 地域社会や文化活動で未知の事柄にチャレンジすることで、成功体験の機会を増やしていく。それを通じて獲得した自己信頼は仕事にもプラスに働き、社内にも還元されるだろう。低成長下、社内業務だけで成功体験を積むことが難しいのなら、企業は個人をもっと社外に解放すべきなのだ。