意思決定に100%の精度を求めない

 とはいえ、もちろん拙速な意思決定でよいわけではありません。
 成功確率の低い意思決定を闇雲に行っているようでは、どんなにメンバーが懸命にがんばっても生産性は上がらず、ただ疲弊の度合いを深めるだけに終わるでしょう。当たり前のことですが、精度の高い意思決定こそが、「よい意思決定」なのです。

 ただし、ここに“落とし穴”があります。意思決定の精度を高めるために、情報収集や市場調査などに過大な時間・労力をかけてしまう結果、意思決定のスピードが落ちるうえに、メンバーに本来業務以外の負担を過重にかける結果を招く。つまり、意思決定に慎重になりすぎると、かえって「よい意思決定」から遠ざかるというパラドックスがあるわけです(下図参照)。

三流上司は意思決定から逃げ、二流は意思決定の「精度」にこだわり、一流は意思決定の「○○」を追求する

 では、この意思決定のパラドックスをどう解決すればいいのか? 私が参考にしたのは、孫正義社長がつくった経営指針「孫の二乗の兵法」です。「孫氏の兵法」と「ランチェスター戦略」をベースにつくられたと言われていますが、これはマネジャーにとっても非常に役立つ指針でした。

 意思決定のパラドックスの解決法も、「孫の二乗の兵法」の「七」という項に書いてあります。「七」とは、「勝率7割で勝負をする」という意味です。勝率5割で戦いを仕掛けるのは愚かだが、勝率9割まで待つと手遅れになる。だから、7割の勝率で勝負をするというわけです(下図参照)。

三流上司は意思決定から逃げ、二流は意思決定の「精度」にこだわり、一流は意思決定の「○○」を追求する

 これは、マネジャーの意思決定にも妥当する考え方です。100点ではなく70点の意思決定をめざすことによって、スピードと意思決定の精度を両立させるわけです。もちろん、「これが70点の基準」という明確なモノサシがあるわけではありませんから、最終的にはマネジャーの胆力で「7割の勝算がある」と決断するほかありません。ですから、当然、間違えることもあります。しかし、それでいいのです。というか、それこそが、実は、最も精度の高い意思決定をする方法なのです。