脳から「エネルギー」が漏れている

 しかし、その成功の裏には絶えざる隠された努力があった。周囲の人たちには、僕が身体的な難題をかかえているのが見てとれただろうが、仕事をするのにどれほど陰で悪戦苦闘していたかはほとんど知られていなかった。

 たとえば、僕が体重過多なのは明らかだったし、会議中に居眠りすることで悪評が高かった。だが、自分の脳が働いてほしいとおりに働かないおかげで、僕が一日をやり過ごすだけでも大苦戦しているのだと知る人はほとんどいなかった。

 僕は仕事に集中できなかった。新しい情報を覚えるのに苦労し、起業家につきものの睡眠不足だけでは説明のつかない消耗性の慢性疲労を感じていた。

 しじゅう二日酔いのように頭がぼんやりしていた──脳のどこかが壊れているみたいに。気分が不安定で、怒りやすかった。運転中によく突き立てるせいで発達した中指を除いては、全身が膨張し、体形が崩れてきた。他人と同じ量の仕事をこなすには2倍働かないといけない感じがした。体のアクセルを踏み込みつづけてもなお、ギアがニュートラルに入ってアイドリングしているようだった。

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 僕には出せる力がもっとあるとわかっているのに、どんなに求めてもそれは出てこないので、生きるのが苦しかった。

 その後、全力を尽くしているにもかかわらず、僕はウォートン・スクールの授業の単位を落としだした。もっと意志力があれば。もっと頭が良ければ。MBAコースを退学になると本気で心配して、努力に努力を重ねたが結果は伴わなかった。

 同級生はみんな僕より頭が切れるのだろうか。どんなに頑張っても結果が出ないことが理解できなかった。そして僕は、仕事は成功したが、自分は思っていたほど切れ者ではないのだと結論した。

 そのときわかっていなかったのは、疲労、集中力の欠如、忘れっぽさ、怒りやすさ、食物への渇望でさえも、僕のせいではなかったということだ。

 僕は怠け者でも、悪人でも、失敗作でもなかった。問題は、脳からエネルギーが漏れていて、どんなに頑張っても求めるレベルまで機能してくれなかったということ。エンジンが壊れた車は、どんなに強く踏み込んでも速く走らない。

 欲求不満をいだき、必死になって達成してきたすべてを失うことを恐れて、僕は自分のハッカーとしての技能をこの問題に応用する方法をさがしはじめた。幸運なことに、ダニエル・G・エイメン博士の画期的な本『「健康」は、脳が99%決める。』に、SPECT(単光子放射断層撮影法)脳スキャンへの言及を見つけた。脳内の各部がどのように働いているかを示してくれる放射性造影検査だ。

 当時は賛否両論あり、否定派が多数だったが、僕は必死だったし、興味をかきたてられたので、シリコンバレー・ブレインイメージング社へ受けにいった。看護師は僕の腕に造影剤の糖を注射し、MRIのような巨大な機械で脳の活動を調べるあいだ、なるべく集中するように僕に言った。