福島第一原子力発電所の爆発事故による放射能汚染に苦しむ福島県は、放射能を恐れて医師たちが逃げたことで、医師不足に拍車がかかっている。行政の対応も遅く、被爆調査も進んでいない。そんななか、気概のある医師が福島を勤務地に選ぶ動きも出て来た。福島で活動を続けてきた上昌広氏に現状と今後の展望を聞いた。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 津本朋子)

福島県民はチェルノブイリよりも
内部被ばくは低く抑えられている

行政は民間の邪魔をするな<br />医療の立て直しが福島を救う<br />――上昌広・東京大学医科学研究所特任教授インタビューかみ・まさひろ/東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任教授。1993年東京大学医学部医学科卒業。2005年より現職。東日本大震災以降、福島県での被爆調査や健康相談などで活躍している。
Photo by Kiyoshi Takimoto

――福島県で医療支援活動をしておられますが、被ばくの現状は。

 南相馬市立総合病院では、およそ1万人にホールボディカウンターという装置を使って、内部被ばくの調査を行い、結果を発表している。体重1キログラムあたり20ベクレル以下が36パーセント。およそ6割の人は検出限界以下だった。チェルノブイリでは半数もの人が20ベクレル以上だったから、これに比べれば、福島の内部被ばくはかなり低く抑えられている。

 体重1キログラムあたり20ベクレル以下であれば、健康を心配する必要はまずない。この結果を知って、安堵した県民は多いはずだ。

 ただし、ごくわずかだが、数値の高い人もいる。こうした人の生活習慣をヒアリングした結果、家庭菜園の野菜を食べているか、県内の農家から、放射能に汚染された果物を箱で買って大量に食べたなどが原因だったことが分かった。生活指導をすることで、こうした人たちも数値が下がりつつある。

 しかし、ごく一部に、なぜ内部被ばくの数値が高いのか、原因が分からない人もいる。引き続き診察をしながら検証していく必要がある。