グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏。その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』が発売直後から大きな話題となっています。
同書の刊行を記念しておこなわれた、リクルート時代をともにした起業家・けんすう(古川健介)氏との対談の第3回をお届けします。第1回はこちらです。
(構成:田中幸宏/撮影:疋田千里)
1日の20%は社内をウロウロすると決めていた
――そもそもお二人はいつからお知り合いなんですか?
尾原 ぼくは、けんすうがリクルートに入社してくることを人事から聞いて、「あの“したらばJBBS”の社長が来るだと?」ということで、待ち伏せしていました。
けんすう ぼくが2006年4月に入社で。
尾原 ぼくはその少し前の2005年10月から。
けんすう 尾原さんがすごいのは、自分の部署にいないで、いつもいろんなフロアにいて、そこらじゅうで立ち話的なことをしまくっていたですよ。だから部署は違ったんですが、ぼくもよく話をしていました。
尾原 当時ぼくはインターネット・マーケティングオフィスという、各事業部を横断してインターネットを見る部署にいたので、1日の20%は社内をウロウロすると決めていたんです。
けんすう タバコ吸わないのに、各階の喫煙所に15分ずついて、「おお、尾原」みたいな感じで声をかけられて。そうすると、尾原さんに聞くと社内の情報がわかるから、みんな聞くわけです。本来であれば、若手も真似できる仕事の仕方だと思うんですけど、あれができる人はなかなかいないですよね。
1981年6月2日生まれ。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、ハウツーサイト「nanapi」を運営する株式会社ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任。
――サボっているようには見えないんですか?
けんすう サボっているように見えてました(笑)。
尾原 だって、ぼくの価値は各事業部のインターネットの集客コストを効率よくすることなので、あっちからこっちに知見をもっていけば、数字を稼げますから。
けんすう つねにサボっている人が仕事をしていると、「お、仕事している」と思ってもらえるということもありますよね。
尾原 尾原はそうやったほうが結果を出すとみんなが認知してくれていたから、できたわけです。当時の上司も、ぼくにきっちりした仕事をさせようと、何度か試してくれたんですよ。でも、ことごとくダメで(笑)。そのかわり、アライアンスの話とか、新しいネタを持ってこさせるとか、新しいことを他の部署にわかりやすく説明するということをやらせると、尾原はちゃんと結果を出すということを上が認知してくれたんです。そのあとは、得意な仕事だけをやらせてもらえるようになりました。
けんすう ぼくもリクルートにいる時は「古川くんの特殊な働き方について」みたいな感じで上司が会議をしてたくらい、変な働き方を試していました。働く場所を「午前中は家、午後はオフィス、夕方からカフェにする」みたいに1日で3回かえてみたり。あと、インターネットでたくさん遊んでいました。ブログ書いたり、サービスを作ったりとか。
尾原 どうしてみんなはオッケーと言ってくれたわけ?
けんすう オッケーと思っていたかどうかはわからないです(笑)。しょうがないなとは思ったんじゃないですかね。リクルートは、その人のキャラを活かして成果をあげるというところに対して、すごい寛容ですよね。
尾原 そういえば、ぼくも、うちの部署の女性社員全員に呼び出されて2時間くらい弾劾裁判されたことがあります。「尾原さんは言ったことをやらない。女性を軽んじているんじゃないか」と怒られて。
最初はなんで怒られているのか全然わからなかったけど、「この日までに書類を仕上げてください」と言われてもやっていないのに、別のところで男の人と新しいプロジェクトをキャッキャとやっていることを怒られているのがわかって。「ごめん、男だから女だからじゃなくて、〆切を守るということがホントにできないんだよ」という話をコンコンとしたんですよ。最後は「尾原さんは本当にダメなんですね」とみんなわかってくれて、「しょうがないな」と2時間後にどうにか解散、となったわけです。
けんすう 別に相手が女性だから軽んじているんじゃなくて、相手が誰であろうと締め切りを守らないだけ、ということですね。
尾原 リクルートはもともと週刊誌をつくっていた会社ですから、進行管理はしっかりしていて、タイムマネジメントが得意な女性が多かったということもあるかもしれません。
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。
仕事が速ければたいていのことは許される
けんすう 仕事が10あるうちの8サボっても、要点の2だけやっておくと大丈夫なものってけっこうあるじゃないですか。優秀な人は、力を入れるところと、そうでないところを区別して、傾斜をつけて仕事をしている気がします。
尾原 大事なのは、自分にしかできない2割を見つけること。ぼくの場合は、いろんなところからネタを拾ってきて、この事業だったらこれが使えますよとか、それは誰々さんがやっていたから繋ぎますよということでした。けんすうの2割は何?
けんすう ぼくはみんながワーッと話したことを、いい感じの資料にまとめるのが実はすごい得意というか、好きですね。
尾原 たしかにまとめ能力高いもんね。けんすうを入れておくと、会議ではあんまり発言しないけど……
けんすう いい感じに解釈も入れて資料をつくるから、結果として速いし、説得力ある資料になっている。それで生きていますね。
尾原 そうだよね、けんすうの資料は説得力がある。ブログの記事もわかりやすいし。
けんすう あれを仕事でもやっていますね。
――自分にしかできない2割にうまく集中できればいいですが、たいていの人は残りの8割に全精力を注いで、仕事をした気になっている気がします。
けんすう 一番シンプルな手法が、同じ時間をかけて同じ仕事をするとしても、アウトプットを早くするという方法です。
たとえば、会議で話していたことが、1時間後に資料ができていたら、わりと感動するじゃないですか。でも1週間たっていたら、「だよね」で終わってしまう。どうせ資料を作るなら、会議が終わったあと直後の1時間で超頑張ったほうが、1週間後に渡すよりも高い評価になります。
そうすると、「あいつ仕事はやいぞ」みたいになって、さらに仕事が集まってくるので、よりスキルアップしやすいところはあるかもしれないですね。
尾原 それはすごくわかる。ぼくも、ミーティングを終わったときじゃなくて、ミーティング中につなぎましたとか、やっぱり速度がすべてを上回るところがあります。
けんすう アウトプットが速ければ許されるということはけっこうありますよね。
尾原 速ければ、未完成でもみんなが足りないところを補ってくれる。何より、速くアウトプットを出すと驚きがあるので、驚きがあると、80点でも120点っぽく見える。
――私も初対面の人からライティングの仕事の依頼が入ったときは、著者の方やネタについてすぐに調べて、断る場合にもなるべく速く、できれば数時間以内にお返事をするようにしています。ただ忙しいから断るのではなく、理由をバーっと並べて、「この人でこのネタだとたぶんうまくいかない」ということを理路整然と説明する。「なんで断るのにこんなに調べてあるんだ」と相手はすごくビックリしますよね。そうすると、断っても信頼が貯まるんです。次はぜひ田中さんにやってほしいと言われて、実際、自分好みの話が舞い込むようになります。
けんすう それ、すごい。頭いいですね。
――スピードは大事ですよね。そのかわり原稿が遅いところがなんとも……
けんすう 要点要点で速いと全部速いというイメージがあるので、原稿が遅くても、今度はクオリティを上げてくれているんだと思い込む。かしこいですね。原稿を速く書くのは大変じゃないですか。
尾原 でも、断る理由をパッと調べるのは、そこまで大変じゃない。
けんすう どうせ断りますしね。けっこう気楽にできるというのもあると思うんです。
――もちろん調べてみて、これはおもしろそうとだと思ったら、やるわけです。
尾原 断るためだけにやっているわけじゃないですからね。初動で速く動くというのは大事ですね。そこで勝ちパターンをつくっておくと、あとが楽になります。