勉強会に行ったりビジネス書を読んだりするだけでは不十分

 消費者や流通やテクノロジーが変化し、業界によっては政府の規制も変わり、多様化がどんどん進んでいく世の中で、今と同じ位置に居続けるビジネスパーソンは2、3年で使いものにならなくなると思いますよ。

 これからは意識的に、いささかのお金と時間を自分に投資し、自分の価値を高める努力をしなくてはなりません。営業でも経理でも財務でも、何でもいいですから、努力目標を持ち、「誰にも負けない私の得意技だ」と言えるものを少なくとも1つ、できれば複数身につけるべきでしょう。

 自己投資をしない人、何かキラリと光るものを持っていない人は、充実したビジネス生活を送れなくなるどころか、この社会の中で生き抜くことすらできないのではないかという気がします。

岩瀬 「自分への投資」とは、実は非常に厳しいものだと思います。サラッと本を読んだりセミナーを聞きにいったりすると、勉強した気になれて心地いいんですよね。でも、心地いいことで自分を強くはできません。

 筋力トレーニングをイメージするとわかりやすいのですが、ペダルが軽い自転車をいくら漕いだところで力はつきませんし、たいして重くないウエイトを持っても筋肉はアップしない。つまり、負荷がかかるトレーニングをしなくては力をつけることはできないんです。

 ビジネスパーソンとしての自分の価値を高めるには、頭がすり切れそうなほど一生懸命に物事を考える経験、「もうダメだ」というくらいの苦しい体験が必要だと思います。

 勉強会やセミナーに行ったりビジネス書を読んだりするだけでは、市場価値は高まりません。本を読むなら1ページずつじっくり考えながら読み、考えたことは時間をかけて文章化し、自分の中にストックしていかなくては意味がないと思うんです。

 自己投資をする際は、長距離を走り終えたときのように、心地よい疲労感を感じるくらいの負荷をかけることを意識したほうがいいですね。

 おっしゃるとおりだと思います。付け加えると、そこに「FUN」があるといいと思います。

 私が42歳でジョンソン・エンド・ジョンソンに転職したとき、アメリカでの会議で、当時会長だったジェームズ・バーク氏のスピーチを聴く機会がありました。私は今でも忘れられないのですが、彼はそのスピーチでこう言ったんです。

 「諸君、何かに取り組んで結果を出したいなら、それはすべからくFUNでなくてはならない。真剣にやるのはいいけれど、深刻になってしかめ面をしながらやっても、物事はうまくいかない。どうせやるなら『おもしろいな』『楽しいな』と思いながらやりたまえ。そうすれば、おのずと物事はうまく運ぶようになるものだ」

 この話を聞いた瞬間、目からウロコが落ちました。

 人間の感情というのは、半分以上は自己暗示なんですよね。「楽しい」と思いながらやっていれば楽しくなるし、「つらい、つらい」と思っていると本当につらくなってしまう。

 私は、彼のスピーチを聴いた日から人生がうまく回るようになったと思っています。つらいことがあっても、前向きな居直りで「FUNで行こう!」と考えるようになったんです。

 「FUN」と「不安」って発音が似ているんですけどね、「不安」をうまく「FUN」に変換してやっていくことですよ。

岩瀬 たしかに、「自分に負荷をかける」と言っても、泣きながらやる必要はありませんよね。笑顔で、楽しみながら自分を鍛えていったほうがいいと思います。