東芝の子会社、ウェスチングハウス(WH)の社長人事が波紋を呼んでいる。4月1日付で社長に就任予定だった、ジム・ファーランド米州地域総責任者が突如、3月末に退職してしまったのだ。
そこで急きょ、WHは取締役会を開催。4月2日付で志賀重範会長(東芝常務)が、暫定的に社長を兼務することが決まった。「休日のため業務に支障はまったくなかった」(東芝幹部)とはいうものの、1日の間、社長の椅子が空席となる異例の事態となった。
WHとは、世界にその名を轟かす米国の原子力大手企業で、原発のパイオニア。建設実績などは世界で群を抜いている。2006年に出資比率77%、約4800億円もの大金をはたいて東芝が買収し、手中に収めた。
「かつて海外では、東芝といえば家電メーカー」(東芝関係者)という扱いで、世界で東芝の原発事業の知名度は低かったが、WH買収でその認識が一変したという。そして、WHのネームバリューを最大限に生かすため、買収後も海外案件の多くは“ウェスチングハウス”の名で受注しているのだ。
しかし、世界の原発事業を牽引してきたというWHの自負は相当なもの。事情に詳しい関係者によれば、東芝の軍門に下ることをよしとしないWHの技術者たちが会社を去って、自分たちの手で原発の研究を続けるといったケースもあったという。
その誇り高き名門原発メーカーを東芝がどうマネジメントするかは、かねて周囲の大きな関心事だったのだ。
退職の理由について、前出の東芝幹部によれば、ファーランド氏は「次が決まっている」と話していたという。そして、その言葉通り4月4日には米重機メーカー、バブコック&ウィルコックスがファーランド氏をCEOに迎えると発表。
45歳にしてWHのトップに選ばれるほどの逸材を、他社も狙っていたということで、東芝は「経営の対立が今回の一件の原因ではない」と否定した。
とはいえ、海外では一般的な引き抜きも社長就任前日の退職ということもあり、「よりによってこのタイミングか」(別の東芝関係者)というのが正直なところ。また、東芝社内では、生粋の技術者だったアリス・キャンドリス前社長よりも、ファーランド氏のほうが営業や経営のマインドがわかり、親会社としてマネジメントがうまくできそうだと考えていたという。
WHは今年2月、米国で34年ぶりとなる原発2基の新設認可を得たのに続き、3月末にも同じく米国でさらに2基の新設認可が下りるなど、本業には追い風が吹いている。
そんな中のドタバタ劇はどのような影響を及ぼすのか。東芝とWHの関係は、注目度を増している。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)