公的年金制度は私たちにとって、老後の頼みである。年金を老後の当てにしている。
しかし、日本の社会保障の根幹をなしている年金は、制度疲労を起こしてしまっている。矛盾、問題だらけだ。
年金は今、何年後かに支給がストップするような財政状況にあるわけではない。これまでやってきたように、ツケを将来に回し続ければ、帳尻はあわせられる。問題をほったらかしにすることは可能だ。
だが、それではこれからの若い世代に申し訳が立たない。子や孫たちの世代が可哀想すぎる。
自分たちの老後のためにも、子や孫たちのためにも、制度・財政の現実や矛盾、問題点をちゃんと見つめようというのが、この特集の主旨である。
「Part1 大誤解だらけの年金」は、この特集の総論・基礎解説だ。1500人アンケートでも浮んでくる誤解や勘違いが、制度の仕組みや実態との乖離に根ざしているという基礎の部分を知ってほしい。
「Part2 問題先送りの深刻」は、制度の問題点やおかしな点が先送りしてきた、政官の構図を追いかけている。先送りのために設定された、高すぎる運用利回り前提については、内側からも批判の声が噴出し始めている。
「Part3 年金問題の真実」は、それまで触れてきた問題の根本には何があるかを指摘する。
根っこにあるのは基礎年金だ。「社会保険でありながら国民皆年金を謳う矛盾」を抱え、「本当の2階建てではなくニセの2階建て年金」となっているのは、基礎年金の在り方に根ざしている。
水掛け論になりがちな年金財政の問題についても、その厳しい現実をここで示している。
こうした問題を直視し、今すぐにでも手直しすべきは手直しし、さらに制度の抜本改革論議に踏み出すべきだ、と訴えるのが「経済学者による共同提言」だ。
賛同してくれた経済学者、池尾和人、井堀利宏、大竹文雄、小塩隆士、小峰隆夫、土居丈朗、八田達夫、深尾光洋、松原聡、八代尚宏、若田部昌澄の各氏のメッセージにぜひ耳を傾けてほしい。
「Part4 公的年金の本当」は、老後のあてが大きく外れないように、参考にしてほしい実用情報だ。
ねんきん定期便の年金見込み額は、単に給付乗率をかけただけのもので、マクロ経済スライドによる調整などは織り込んでいない。
それを織り込み、ほかにも賃金上昇率、物価上昇率による「嵩上げ」を排除するなどして、17タイプ別「本当もらえる年金額」を試算してある。「損しないための必須知識」も必読である。
自分たちの老後のため、子や孫たちのためにも、ぜひ、この特集を手に取っていただきたい。
(「週刊ダイヤモンド」副編集長 小栗正嗣)