やらないと決めたことをやらない勇気を持つ

 もう1つ時間管理の鉄則は、「やらないと決めたことはやらない」ということだ。

 われわれの時間は有限。何でもやりたいことができるわけではない。山ほどやりたいことはあるが、それを取捨選択し、「本当にやりたいこと」「やらなければならないこと」だけをやるのが人生の選択というものだ。

 ところがこれが難しい。

 一度やらないと決めても、やっぱりやってみたいということになってしまうのだ。

 たとえば、ゴルフのことを考えてみよう。

 私は若いときからゴルフをやっていたのだが、50歳をこえてからめっきり飛距離が落ちた。練習場に行き、若い人がガンガン飛ばしているのを見ると、「自分はドライバーで200ヤードちょっとでいい。こつこつ刻んで行って、スコアをまとめればいい」と考える。練習場に行くたびにその思いを強くする。

 ところが、コースに出るとそうはいかない。何とか230ヤード飛ばしたいという欲が出て、力みが入る。そして、第一打を失敗する。150ヤードしか飛ばずラフの中。

 まだ、ピンまで200ヤードあるのに、3番ウッドを取りだして、起死回生の一打を放とうとする。これが全然とどかないうえに、ラフに行き、そこからグリーンに乗せるのに2打かかり、2パットでダボ。まさに結果が出ないのである。

 いかに、「やらないと決めたことをやらないですませるのが難しいか」を痛感する瞬間だ。

勝手に仕事の範囲を広げて信用を失う

 当然、こういうことは仕事でもよくある。

 私が、若いころ、コンサルティングの仕事をしていたとき、アメリカ人の上司から、クライアントの会社が今度出す新製品の競合会社AとBの販売戦略を調べるように命令されたことがある。納期は、3日後である。上司も時間がないのは分かっているから、「大雑把な分析でいい」と言ってきた。

 私は、早速A社とB社の販売戦略を調べ始めたが、最近売上を伸ばしているC社のことが気になって仕方がなくなった。3日あれば、3社のことが調べられる、そうすればそれまで、今一つうまくいっていなかった上司との関係も修復できると思い、仕事の範囲を拡大することにした。

 ところが、調べ始めてみると、A社、B社の情報は割と簡単に手に入るのだが、C社の情報が全く出てこない。そこで、自分で色々な文献の検索をしたり、業界関係者に話を聞きに行ったりしてみた。しかし、時間を取られるばかりで、全然有益な情報が集まらなかった。3日たっても、A社とB社とC社についての営業人員数と販売小売店数、販売額の伸びのデータしか集まっていない。

 それをまとめて出したところ、上司から、小売店への卸値とかインセンティブ制度はどうなっているのか、広告はどういうものを打っているのか、それが販売増に結びついているのかという質問が浴びせられた。どうも、上司はA社とB社について、そういう情報が欲しかったらしい。

 最後に、上司から「あと1日やるから、A社とB社だけ調べるように」と言われた。上司の信頼を却ってなくしてしまったのである。

 C社にまで、勝手に戦線を拡大したことが、失敗の原因だった。

 いかに自分をコントロールするかの問題である。いつも冷静な心を持って、やらないと決めたことは、やらないと心に誓うしかない。