「どうすれば、一生食える人材になれるのか?」「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるそんな不安。
北野唯我氏は、発売たちまち3万部を超えるヒットとなった『転職の思考法』で、鮮やかにその答えを示した。「会社が守ってくれない時代」に、私たちはどういう判断軸をもって、職業人生をつくっていくべきなのか。
今回は、就職活動中、親が子にするアドバイスに潜む、根本的な欠陥に北野氏が切り込む。

親から子への就活アドバイスは「根本的に」的外れである

「子どもにホントに教えたい、キャリアの本質はなんですか?」

親から子への就活アドバイスは「根本的に」的外れである北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。

「それでは、最後の質問です」

私はそう言い、こう続けた。

「もし21歳の子どもがいたとして、その子に1つだけ就職のアドバイスを送るとしたら、なんと言いますか?」

私はこれまでたくさんの方にキャリアや仕事に関する取材を行ってきました。その中で毎回のインタビューで最後に聞く質問の1つがこれです。つまり「自分の子どもに伝えたい、キャリアの本質」について。あなたならなんと答えるでしょうか?

キャリアについて面白いのは、親は必ずしも「優れたアドバイザー」ではないことです。実際、学生さんと話していると、しばしば出てくるのが「親がXXの会社に行きなさい」というような指示を出すケースです。たとえば「財閥系の会社しかダメ」といったような話です。

私はこういう話を聞く度に、なんとまぁ「親のアドバイス」というのは本質をついていないんだ、と思うことがあります。私は決して「新卒で大企業に行ってはいけない」なんてことは言うつもりはありません。むしろ、考えた結果「新卒では大きな会社に入ること」は往々にしてアリだと思っています。

では、なぜ、それでも「親のアドバイスは本質ではない」と思うかというと、本質的に人が何かを教えるべきなのは「答え」ではなく、「考え方」だと思うからです。つまり「XX商事に行くべき」ということではなく、「どうやって新卒で行くべき会社を選ぶのか」という思考の軸です。

大学受験を控えた我が子に「テストの答え」を教えるだろうか?

これは大学受験を控えた子どもをイメージするとわかりやすいでしょうか。たとえば、あなたが子どもを持っていたとして、その子は東京大学に行きたいと思っていたとします。その時、あなたは予備校の先生に「何を教えること」を求めるでしょうか。

テストの「答え」でしょうか。違いますよね。その答えを導くための「考え方」のはずです。つまり、必要なのは「魚」ではなく、「魚の釣り方」。これがキャリアに関するアドバイスで、一番見落とされがちな点です。

就職ランキングという無意味な「ペーパー」を与える罠

私は普段、ハイクラス向けのポータルサイトでメディアを運営しています。その中で「就職ランキング」を取り上げることがあります。自戒の念を込めていうのですが、この「単にランキングを提示すること」ほど、就職において本質から外れたアドバイスはありません。

もちろん、マッキンゼーや、三菱商事、野村総研に代表されるように「人気の企業には人気がある理由」が存在しています。しかし、大事なのは「答え」ではなく、その「考え方」のはずです。この考え方を示さないまま出された「就職ランキング」は百害あって一利しかない、と感じます。

では、問題は「考え方」はなぜ、伝えられないのでしょうか。それは「誰もわかっていなかった」からです。

キャリアにも、最初の「微分方程式」が必要

数学に、基礎となる「公式」があるように、キャリアにも基礎となる「公式」があります。 結論をいうと、キャリアは3つの要素の掛け合わせでできます。

私たちの市場価値は、技術資産×人的資産×業界の生産性の3つで表現できます。そして、それらの掛け合わせによって「キャリア」が形成されます。具体的に私がオススメしているキャリアは3つのパターンがあります。

このようにまず「公式」となるような、軸を置き、自分のキャリアをどう設計していくか、それこそがまず一番最初に学ぶべき「考え方」だと思うのです。具体的には、20代は専門性、30代は経験、40代は人的資産を大事にすべきです。

もちろん、これですべての事象を説明できるほどキャリアは簡単ではありません。ですが、自分のこれまでの職務経歴をまずこの3つで棚卸しし、整理することで少なくとも「今の自分の立ち位置」は見つめることができます。詳しくは書籍に譲りますが、これが自分の子どもに伝えたい1つ目の考え方です。

何に価値あるかは、長期的にみれば簡単に逆転する

もう1つ、私が自分の子どもに伝えたい、キャリアの本質があります。それは「価値のあるものと、価値のないものは、長期的に見て逆転することがある」という真実です。私は今メディアを運営する身として、日々痛感することがあります。それは、この世の中には「メディアには出ているけど、実はすごくない人」もたくさんいれば、反対に「メディアには露出していないけど、実力も人望もある人」もたくさんいるということです。

そして、長期的に見たとき、「価値のあるもの」はやはり評価され、「価値のないもの」はどこかで淘汰されることが多い。過去の人気企業の多くは、現在倒産し姿を消しています。

言い換えれば、周りが今、「すごい!すごい!」と讃えることだけに惑わされてはいけません。短期的な視点から、そのキラキラしたものを手にすることよりも、「本当に大事なものは何か」を注意深く見極める力の方がはるかに重要だと思うのです。いかんせん、今は人生100年時代。騙し続けて一生逃げ切るほど、短くもありません。

ある著名な方は、この構造をこう表現していました。

「すべてのものは過ぎ去り、そして消えて行く。その過ぎ去り消え去っていくものの奥にある永遠なるもののことを 静かに考えよう」
(武宮隼人)

さて、冒頭の質問に戻ります。ぜひ教えてください。あなたにとって

「子どもにホントに教えたい、キャリアの本質はなんですか?」