答えはなかった。唯一あったのは「世界観」

 実際、ここに強く共感したと語っていたのは、日本マイクロソフト社長の平野拓也氏だ。

「サティアはいろんな話をしますが、この世界観というのを、とても大事にするんです。ここがひとつ、とてもユニークなところだと思いました。ミッションを語るトップは多いと思うのですが、世界観を語る人は、なかなかいないと思います」

 ミッションが来れば次はストラテジー、というのが一般的な考え方なのではないか。ところが、世界観という話が入るのだ。

「今、我々がいる世界はどこで、今後ある世界はこうですよ、という世界観を毎回、話していくんです。会社が何か変わらないといけないというときに、わかりやすい形でシンボリックに語っていく」

 成功モデルとして作ったものがなかなか崩れないというタブーがあるなかで、変革を実現できたのは、世界観の深さと刺激があったからだと語る。

「方向性があり、その上で、なぜだ、というベースラインが世界観として描かれていると、よりミッションが浮き立ってくる。何をしないといけないかというときに、これまで成功したもの、うまくいかなかったもの、取り除かないといけないものが、明確に見えてきたという印象があります」

 ソフトウェアからクラウドへというビジネスの大変革が起きたマイクロソフト。実は日本法人は、いち早くその取り組みを推し進め、すでに売り上げの50%を超えるところまでクラウドが占めるまでになっている。

 だが、インタビューで平野氏は驚くべきことを語った。数字に責任を持つ立場として、もしクラウドに大胆にシフトしたとき、どうなるか予想はできていなかったというのである。

「おおよその検討はつきましたが、はっきりと数値化できたかといえば、できていませんでした。Windowsの無償化や、競合とのコラボレーションは理屈としては理解できます。しかし、本当にマネタイズができるのか。もくろみはあっても、何のファクトもないわけです」

 本社にも答えがあったわけではなかった。唯一あったのは、もしかするとナデラCEOの世界観だったのではないか。

 こんな世の中になる。だから、自分たちは間違ったことはやっていない、それは結果に表れるはずだという確信だ。なんというビジョナリーなリーダーシップだろう。

 しかし、2年後に平野氏は驚くことになる。結果が出てきただけではない。その「世界観」が、あっさり変わったからである。