なぜドメインまで変わる大転換がスムーズだったのか?

 ソフトウェアからクラウドへビジネスを大転換させることができたのも、こうした世界観があったからだろう。そして、世界観のもとでミッションを達成するために行動していけばいい。極めてわかりやすいのである。

「私たちは、先代のCEOの時代のビジネスも展開しているし、クラウドも展開しています。両オプションを提供しているのは、ひとつの価値でもあり、差別化でもあります。また、地球上のすべてのコンピューティングパワーが、必ずしもクラウドに行くというわけではありません。ただ、中途半端な立ち位置ではなく、明確にこっちに行くんだという考え方が出てくると、ものすごくわかりやすくなったんです」

 だから、みんなが「ノーススター」にできるミッションになる。誰もが変革にうなずけるようになる。だが、これだけの変革ともなれば、社内で反発の声が出なかったはずがない。

 マイクロソフト本社の経営執行チームの一員であり、全世界のセールス&マーケティングの責任者であるジャン=フィリップ・クルトワ氏はこんなことを語っていた。

「トルストイというロシアの有名な作家がいますが、彼が言っていました。『この世界をみんなが変えようと言っている。しかし、誰一人として自分が変えようとは言わない』。これは私たち全員に言えることだと思います。変化というのは、非常に難しいものなんです。変わることは大変です。それが大きなものになれば、仕事の仕方そのものを再定義していかないといけない。新しい習慣も身につけないといけない。しかし、その難しさがわかっていれば、実際に努力ができるわけです。注視して、サポートもできる。しかも、表面的なサポートではいけない。本当に深いサポートをしていくことが成功のカギを握っています」

 マイクロソフトの場合でいえば、掛け声だけで終わらせなかった、というのが大きい。カルチャーの大胆な変革も含め、経営執行チーム自らが大きな判断を下し、大胆な取り組みを次々に実行していったのである。

(この原稿は書籍『マイクロソフト 再始動する最強企業』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)