求められる人材が変われば「育成」も変わる
評価制度や求める人材が変わると、トレーニングも変わる。前出の岡部氏は言う。
「以前のトレーニングは、スキルを磨こうという研修的なトレーニングが多かった印象があります。今でもそういうものはありますが、新たなカルチャーを身につけること、ダイバーシティ&インクルージョンのある環境のもとで働くために必要なこと、お客さまに新しい提案をする際のアプローチの方法論など、ものの考え方やアプローチの変革をトレーニングされるケースが増えています」
こういうことができなければいけないというよりも、こういうマインドで仕事をしなければいけない、という意識を変えるトレーニングだという。
「結局、リーダーがグロースマインドセットを示さないと、部下もマインドを変えられないんです。みんなが同じ方向性、マインドセットになっていないと、表面的に仕事のスキルを高めたところで、会社が求めるような仕事はできません。つまりインパクトにつながりません」
印象的なことは、目指す方向性を統一していこうという会社の姿勢だ。
「グローバルでも日本でも、企業ミッションとカルチャーのもとで目指す方向性を合わせていこうという発想は強いですね。どんなリーダーも、同じ方向性の考え方を持っている必要がある、と。マネージャー職にある人間は、毎四半期、カンヅメになって所属部門に関係なく交流するという機会が作られています。ダイバーシティ&インクルージョンに関して、部下も同じようなマインドセットを持つための取り組みのひとつです。目指すミッションがあって、求めるカルチャーがありますから、会社のカルチャーに基づいた環境を本気で作ろう、ということです」
日本法人を率いる平野拓也社長が感じる新しいリーダーシップのキーワードは、巻き込み力だ。平野氏は言う。
「かつては、すでにデザインされたところを徹底的にシャープにやっていく、というものが求められていたと思います。今は、自分でどんなふうにすれば、自分が考えていることが実現できるのか、いろんなところを巻き込んで実践していく力が求められるようになっています」
そして、そうしたリーダーシップの最高のお手本になっているのが、ナデラCEOということになる。コーポレートバイスプレジデントで、コミュニケーションのトップ、フランク・ショー氏はこんなことを語っていた。
「サティアは聞き上手なんです。本当に人の話に耳を傾ける。議論するために聞いているのではなく、理解しようと思って聞いている。それは、話している私にもパワーになります。そして、私に対してリアクションをしてくれる。『これは君の専門だよね。何か推薦してくれないかな』。そんな対話ができるんです」
もちろん、すべてに同意をしてもらえるわけではない。しかし、きちんと意見を聞いてもらえたと感じることができるという。
「意見を聞いてもらえれば、いろいろと考えた上で彼が決定を下しているということがわかりますから、仕事はとてもしやすいですね。ただ、求められる基準は高い。それは意識しないといけないです」
フランク・ショー氏は、ビル・ゲイツ、スティーブ・バルマー、サティア・ナデラと3代のCEOを見てきたが、3人ともまるで違うという。
「3人とも強烈な人たちで、モチベーションが極めて高いことは共通していますが、表現の仕方はまったく違います。ビルはすごく直截的。彼とミーティングをしていると、『最悪のアイディアだね』なんて言葉が何度も出てきたりする。そういう言い方で、相手をプッシュして、良いアイディアを出させようとする。スティーブは、とにかくエネルギッシュな人。彼が入って来るだけで、エネルギーがみなぎってくる。一緒に仕事をしていると、いつも電気ショックを受けているようでしたね」
それに対して、サティアの強烈さは、共感に基づいたものだという。
「好奇心がとても強いんです。そして、本当に学習をする。ですから、彼とミーティングをするときには、ベストな準備をしておかないといけないですね。100%以上の注意を傾けてくれますから、それに応えたくなる。ただ、静かな人ではあります」
(この原稿は書籍『マイクロソフト 再始動する最強企業』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)